高知論叢107号

高知論叢107号 page 68/180

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66 高知論叢 第107号ならないので,総会の特別決議で足りることになる。したがって,法的構成を異にしつつも,裁判例となって現れた個々の事案においては,特別決議によるべきであるという結論へと収斂することもあ....

66 高知論叢 第107号ならないので,総会の特別決議で足りることになる。したがって,法的構成を異にしつつも,裁判例となって現れた個々の事案においては,特別決議によるべきであるという結論へと収斂することもありうる18。なお,漁業補償をめぐる紛争が多発する背景には,漁協が経済事業体である性格に起因する経営安定化のための合併推進の趨勢と,当初入会集団ごとに漁協を組織させて免許を付与するという漁業法の免許制度とのギャップの拡大にあるという指摘はすでになされてきた19が,多くの裁判所にとってはこのような事情は考慮の外にあるようである(例外的に[2]判決はこの点に関する判示を詳細に行っている。判時718号18頁以下)。しかしながら,本稿における検討が進むにつれ明らかになるであろうが,共同漁業権の法的性質をめぐる議論の要石は,合併推進政策下における漁業権の主体の問題にある。2-3. 漁業補償金の帰属と配分手続をめぐって(論点②について)(1)問題の所在補償金20の配分手続については,総会の特別決議で足りるかあるいは組合員の(入会集団構成員の)全員一致の原則によるか,という形で争われる。この手続を論じる前提として,補償金が組合に属するか,あるいは組合員に属する18 熊本・前掲書②(注14)137頁は,[1]判決は,4 つの漁業が合併した広域漁協による事案であるから,漁協が被害を受けない組合員も含めて総会決議をあげたのに対し,自らの漁場を埋め立てられる関係組合員による書面同意が必要としたのは常識的であるとする。また[3]判決は,一関係地区一漁協の事案であるから,総会のメンバーと関係地区の組合員は一致するから書面同意は不要とするのであって,同様に常識的な判決であると述べる。19 武井・前掲論文(注12)47頁以下。20 中尾・前掲論文①(注11)112頁注(4)は,裁判例の多くは,「放棄の代償としての補償金」を前提としているが,ここで争われている補償金は漁業権放棄の対価ではなく,「事前の損害賠償」に相当するとする。田中・前掲書(注6 )198頁が,補償契約が「事前の損害賠償」であることを認める例として挙げる「公共用地の取得に伴う損失補償基準要領」(昭和37年6 月29日閣議決定)の第3 では,事業施行中又は事業施行後における日陰,臭気,騒音,水質の汚濁等により生ずる損害等について,これらの損害が受忍限度を超えるような場合,「これらの損害等の発生が確実に予見されるような場合には,あらかじめこれらについて賠償することは差し支えないものとする」とある。