高知論叢107号

高知論叢107号 page 74/180

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72 高知論叢 第107号合あるいは被害発生の危険性がある場合に,被害を受けた(受けるおそれのある)漁民が漁業行使権(漁業を営む権利:漁業法8 条)に基づき,侵害行為の差止請求は認められるか。公害事件において....

72 高知論叢 第107号合あるいは被害発生の危険性がある場合に,被害を受けた(受けるおそれのある)漁民が漁業行使権(漁業を営む権利:漁業法8 条)に基づき,侵害行為の差止請求は認められるか。公害事件において差止請求の法的根拠については,周知のように,判例上は人格権とならんで物権的請求権が認められているが(学説上はこれに加えて環境権説が有力),同様に漁業行使権が法的根拠として認められるか,換言すれば被害漁民が組合員として有する漁業行使権に基づいて妨害排除請求できるかが問題となる。漁業法23条は漁業権を物権とみなすと規定するが,組合員の漁業を営む権利に関しては同様の規定がないからである。この点につき,既に述べたように従来から総有説,社員権説という法的構成にかかわらず漁業行使権は物権的性格を有し,それが差止請求の法的根拠たり得ることを承認するということについて争いはないとされてきた33。(2)裁判例ここでは,[21]青森地判昭61・11・11訟務月報33巻7 号1854頁,[22]山口地岩国支決平7・10・11判タ916号237頁(上関原発立地環境影響調査禁止仮処分決定),[23]佐賀地判平20・6・27判時2014号3 頁(諫早湾干拓地潮受堤防撤去等請求事件第一審判決),[24]福岡高判平22・12・6判時2102号55頁([23]の控訴審判決)及び[25]富山地判平20・11・26判時2031号101頁(出し平ダム排砂漁業被害事件第一審判決)を取り上げる。[21][23]判決および[24]判決であるが,共同漁業権につき,社員権説の立33 中山・前掲論文(注5 )51頁。漁業法研究会・前掲書(注5 )67頁は,漁業法8 条に規定される「組合員の漁業を営む権利」は,組合管理漁業権又は入漁権そのものではないが,漁業権の物権性を反映し,妨害排除請求権等の物権的効力を有する権利であるとする。なお,水産庁経済課編・前掲書(注5 )56頁は,「共同漁業権,区画漁業権の場合は,組合員の各自漁業を営む権利も物権である」とする。学説では総有説の立場からは,漁業法23条により漁業権が物権とみなされる一方,「組合員の漁業を営む権利」については,漁業法には物権である旨の規定はないが,漁業権と同様,漁業を営む権利についても漁業権侵害罪が適用されること等から物権的請求権(妨害予防請求および妨害排除請求)が認められている。田中・前掲書(注6 )56,78頁。熊本・前掲書①(注5 )227頁は,漁業法8 条の漁業を営む権利とは,組合員の共同漁業権を言い換えたものにすぎないとするから,当然物権的性格は肯認される。