高知論叢107号

高知論叢107号 page 84/180

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82 高知論叢 第107号代においても,そのような共同収益を停止したり造林したり(直轄利用形態),また地盤を分割して入会権者に個別に利用させたりする形態(分割利用形態)が行われていたのであり,入会権者は自ら....

82 高知論叢 第107号代においても,そのような共同収益を停止したり造林したり(直轄利用形態),また地盤を分割して入会権者に個別に利用させたりする形態(分割利用形態)が行われていたのであり,入会権者は自らの決定で一つの形態から他の形態に変化させることによってまさに入会権を行使してきた,というのである。(519,520頁)そして博士によれば,このような入会稼だけにとどまらない入会権による収益活動の動態的な変化は,入会権の主体の構造,すなわち入会集団=入会権者が使用収益権能だけではなく,管理処分権能を有するということから導かれる。(520頁)なお,田中克哲氏は,徳川時代の海における入会的漁業の利用慣行の形態として,①集落有の漁場(「一村専用漁場」等)を部落民が入り合って,あわび・さざえ・海草等を採補する形態(古典的利用形態にあたる),②集落全体で運営する村張りの定置網(団体直轄利用形態),③小型の定置網やのり等の養殖業(個人分割利用形態),④大型の定置網や養殖業(契約利用形態)を挙げている53。中尾説は,基本的に上記の川島理論を継承・展開したものと考えられる。我妻説では,集団には管理処分権能しかないとするから,直轄利用形態が説明できないとの批判がなされ,漁業の場合,漁業協同組合が漁業を自営することがあり,法も一定の制約のもとにこれを認めている(水協法17条)ことが指摘される54。なお,我妻鑑定書においては,漁協が定款で組合の事業として「漁業の経営」を挙げる場合,それは「組合員のために」行うのであって,各自に帰属する漁業権能を共同して実現しているだけという説明が与えられている55。以上にみてきた,川島=中尾説の有する意義の一つは,入会集団=漁民集団による収益活動が,古典的利用形態に限らない多様性を有し,その多様性に呼応する形で現行法が整備されていることがより直截に明らかになることにある。すなわち,前述の通り,漁業法上の共同漁業権は5 種類があり56,そのうち,とりわけ第1 種共同漁業権は入会的性質が強いとされることがある57が,この53 田中・前掲書(注6 )3頁。54 中尾・前掲論文③(注50)333頁。55 我妻・前掲鑑定書(注3)387,391頁。56 1「はじめに」参照。57 例えば,水産庁企画室編・前掲書(注5 )65頁[穂積良行執筆]。