高知論叢107号

高知論叢107号 page 86/180

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84 高知論叢 第107号とを否定してきたが,川島博士は,特定の入会団体(仲間的共同体)の存在を内容とする慣習があることが入会権の前提要件であり,この入会団体が「従前の慣行上入会権の存在しなかった地盤の所有....

84 高知論叢 第107号とを否定してきたが,川島博士は,特定の入会団体(仲間的共同体)の存在を内容とする慣習があることが入会権の前提要件であり,この入会団体が「従前の慣行上入会権の存在しなかった地盤の所有権を取得した場合に『共有の性質を有する入会権』が成立する」というのである。(523頁)田平紀男教授は,「この説を共同漁業権に即して理解すると,特定の漁場についての漁業入会の慣行の存在を内容とする慣行ではなく,漁業入会団体の存在を内容とする慣習があることが漁業入会権=共同漁業権を構成する場合の前提要件であり,この漁業入会団体が従前,漁業入会の慣行の存在しなかった漁業権を取得した場合,その漁業権は漁業入会権(または入会的漁業権)となる,ということになろうか」としている60。入会権の主体性に着目した川島理論の解釈論上の意図は,入会権の私有財産権的性格を強調するところにあるが61,共同漁業権に関しても,川島理論を援用することによって,伝統的に入会権的性格が強いとされている第1 種にとどまらず,従前有していなかったものの,(契約によってではないが)漁業入会団体が免許付与によって取得した漁業権も私有財産としての入会権的性質を有することが承認されよう62。また,前記[8]最判は,前述2-1. のように,共同漁業権が免許によって付与されることをもって,その入会権的性質を否定する根拠としているようでもあるが,それに反駁することの一論拠にもなりうるであろう。(b)それでは我妻鑑定書に関する第二の検討課題に移ろう。これは,漁協の二重的性格と合併に関連する問題である。我妻鑑定書は,一関係地区一漁協の場合を前提として論じたものであるという熊本一規教授による批判がある。熊本教授によれば,共同漁業権の入会集団60 田平・同上151頁。61 鈴木・前掲論文(注43)239頁。例えば,川島「入会権」川島編・前掲書(注48)516頁,532頁を参照。62 この点に関する我妻博士の見解については前注(42)を参照。なお,池田恒男「コミュニティ,アソシエイション,コモンズ」法社会学73号128頁(2010年)は,漁業権行使規則に関する最判平9・7・1 民集51巻6 号2205頁を取り上げ,入会権の公権論的理解が漁業権につき復活しつつある事態について警鐘を鳴らしている。