高知論叢107号

高知論叢107号 page 87/180

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共同漁業権論争の現在的地平85は関係漁民集団であって組合員集団ではない。1 つの関係地区に1 つの漁協がある場合,我妻博士が論じるように,漁協は経済事業団体(法人)としての性格と入会集団(実在的総合人)とし....

共同漁業権論争の現在的地平85は関係漁民集団であって組合員集団ではない。1 つの関係地区に1 つの漁協がある場合,我妻博士が論じるように,漁協は経済事業団体(法人)としての性格と入会集団(実在的総合人)としての性格の二重の性格をもつ。他方,一関係地区一漁協であった2 つの漁協が合併すると,新たな広域漁協は,我妻説と異なり,入会集団としての性格を備えないことになる。その場合の入会集団はあくまで合併前の旧漁協の組合員集団なのである63。ここでは,二重の性格の議論が成り立たなくなり,組合の位置づけを再考する必要が生じる。熊本教授は,基本的に中尾説同様,組合および構成員の両者に管理処分権能も収益権能も帰属するとしつつ,漁協については,漁協はいわば免許を受ける際の名義人に過ぎず,真の権利者は入会集団(旧漁協の組合員集団)であるとする64。法人としての組合は名義人に過ぎないとするのである。熊本教授による以上の批判は,次の第三の課題を検討するに際して考慮に入れる必要がある。(c)第三の検討課題は,各構成員に持分権を認められないとする我妻鑑定書の見解についてである。すでにみたように川島博士は,入会権者の持分権という概念を肯定していたが,我妻博士は,入会権について,各自の持分権および分割請求権を否定している65。同様に,鑑定書においても,総有団体(実在的総合人)は,一定の基準によって資格の定まる,特定されていない多数人の団体であるから,共同漁業権の主体たる総有団体(実在的総合人)が漁業権を放棄することによって取得した補償金は,単一的存在をなすものであって,潜在的にも各自に分割帰属するものではないとする66。しかしながら我妻説については,漁業の実態においては,各構成員は持分を有することが認められているとして,持分を各構成員に認める中尾教授の見解67が対峙する。この見解によれば補償金を組合財産であるとする[8]最判の63 熊本・前掲書①(注5 )161頁,226頁。64 熊本・同上86頁。漁業法は免許を受ける者を漁業権者と呼ぶため,単なる名義人でも漁業法上は漁業権者と呼ばれるに過ぎないとする。65 我妻=有泉・前掲書(注42)438頁。66 我妻・前掲鑑定書(注3 )394頁。67 中尾・前掲論文②(注11)105頁,同・前掲論文①(注1 )577頁。