高知論叢107号

高知論叢107号 page 88/180

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86 高知論叢 第107号ような社員権説に対しては,組合員には配分請求権が認められなくなり不当であるという批判がなされることになる68。持分を各構成員に認める見解については,一般に行われている漁業補償における....

86 高知論叢 第107号ような社員権説に対しては,組合員には配分請求権が認められなくなり不当であるという批判がなされることになる68。持分を各構成員に認める見解については,一般に行われている漁業補償における配分の手続69からみれば,持分という概念構成を用いることは,各組合員からの組合に対する,ひいては裁判所に対する個別の配分請求を認めることになり,実際の漁業補償の配分手続の実態にそぐわない結果となってしまうという懸念がなされる70。我妻鑑定書は,漁業補償の一般的な実際(ただし円満解決の場合)についての浜本幸生氏からの話を受けてから執筆されたものであり71,伝統的な入会権論をベースにして実態に即するよう理論構成されたとみられる。ただし,中尾教授も,持分は通常の共有の持分と異なり,集団の統制下におかれて譲渡処分の自由がなくまた分割請求権もないとしている72。したがって,仮に持分概念自体は肯定されるとしても,配分に関する決定は,入会集団の管理処分権能によって(原則として全員一致の原則により)決せられるから,基本的には,各自の配分請求権の個別行使は入会集団の管理処分権能によって制約を受けるものと解されよう。問題は,配分に関する決定をめぐり組合内において紛糾が生じたような場合であり,そのような事態は, 1 関係地区1 漁協ではない場合で生じることが多いと推測される。我妻鑑定書は,補償金は,漁民団体の全員の協議で分割すべきものであるが,協議が調わないときは,裁判所は全員を当事者とする手続において全員の意見を聞き,補償金の性格や分割の基準,さらには各漁民の生活状態など諸般の事情を考慮して,統一的な分割をなすべきであるとする73。また,我妻鑑定書を基本的に採用して,共同漁業権は,漁協と,その組合員全員によって構成される総有者団体とに質的に分有されて,漁協が管理権能を,総有者団体がその収益(漁業を営む)権能を,それぞれ有するという見解にたつ[11]判決は,民68 中尾・前掲論文①(注1 )577頁。69 前注(6)参照。70 我妻・前掲鑑定書(注3 )395頁。71 浜本・前掲論文(注5 )350頁以下。72 中尾・前掲論文②(注11)105頁。73 我妻・前掲鑑定書(注3 )396頁。配分の基準についてはさらに,同・398頁以下参照。