高知論叢107号

高知論叢107号 page 91/180

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共同漁業権論争の現在的地平89反映されることに配慮しつつ(あるいは共同漁業権が合併の阻害要因とならないように)漁協合併を推進する目的の下に制定されたと解されている80。前述3-1.(2)のように,漁業法8 条の....

共同漁業権論争の現在的地平89反映されることに配慮しつつ(あるいは共同漁業権が合併の阻害要因とならないように)漁協合併を推進する目的の下に制定されたと解されている80。前述3-1.(2)のように,漁業法8 条の昭和37年改正により組合員の「各自」漁業を営む権利から「各自」という文言を削除したという法改正を最大の根拠として,[8]最判は入会権的性質の消滅の根拠とした(2-1. の(エ))。しかし漁協合併の促進という観点(入会集団構成員の共同漁業権が合併の阻害要因とならないようにするという観点)を導入することにより,この法改正の正当な解釈が可能になる。すなわち,昭和37年改正前漁業法8 条は,組合員のうち定款に定める者だけが「各自」漁業を営む権利を有する旨規定していた。一関係地区一組合の場合(第1 種共同漁業権を有するA 組合とする)はこれで問題がない。しかし旧規定のままでは漁協合併(A 組合と第1 種共同漁業権をもたないB 組合が合併)がなされた場合,入会集団構成員でない他の地区(B 組合)の組合員の「各自」までもが,A 組合の有する第1 種共同漁業権を「各自」行使することが可能になり,組合の合併がA 組合から拒否されるおそれが生じる。したがって法改正では「各自」という文言を削除し,漁業権行使規則(改正前では定款)に定めるものだけが漁業を営む権利を有することを明確にした,と解するのが正当である81。3-2. 機能共同漁業権は,もとより漁業に従事する者の生存の基盤である。そしてまた以上の判例・裁判例の検討及び共同漁業権の存在構造を検討してきたことを通じて示唆されるのは,共同漁業権の客体が海という自然資源であるということから環境保全的・資源保全的機能を有することではなかろうか。ただし,共同80 田中・前掲書(注6 )240頁。81 中尾・前掲論文②(注11)90頁以下,同・前掲書(注1 )576頁,浜本・前掲書(注3 )68頁以下,田中・前掲書(注6)240頁。また,[2]判決の判時718号18頁以下も参照。なお近年では一県一組合を志向してさらなる大規模な合併が相次ぐ状況となっているが,緒方・前掲論文①(注1 )99頁以下では高知県内における漁協の大規模合併の動向を取り上げた。