高知論叢107号

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90 高知論叢 第107号漁業権は,生ける法であるであるとともに国家法規範という二重構造を有し,裁判規範でもあるが,現状では司法による紛争解決機能は十全に作動していないことも確認できた(紛争解決機能につき,....

90 高知論叢 第107号漁業権は,生ける法であるであるとともに国家法規範という二重構造を有し,裁判規範でもあるが,現状では司法による紛争解決機能は十全に作動していないことも確認できた(紛争解決機能につき,後出注(86)を参照)。さらに共同漁業権の有する機能として,共同漁業権自体に,沿岸海域の利用に関して秩序創出機能を内在させていることを指摘できよう。この機能に関連して,入会地ではなく,農地所有権自体にコモンズ性を見いだす議論を参照しておきたい。楜澤能生教授によれば,コモンズ性とは第一に,人と自然との一定の関係性に特徴付けられる関係(生業)である(コモンズ性の第二は国家的な公でも市場的な私でもない公共的な空間である)。農地所有権についてコモンズ性の第一にあたるものは,農地法の原則であり,農地の権利主体たるべき要件として農作業従事を要求する「耕作者主義」(同法3 条)である。農作業従事,経営主宰,経営の主体であることの一体性が農地取得の要件とされるのであるが,これは地域定住者と農地の関係を切断することをコントロールする機能とみられる。切断のコントロールによって,人と土地のあり方が維持され,そして農地が自分の土地である,所有権の対象であることによって土地への愛着が生まれ,農産物へのこだわりが生じる82。農地法の基本原則である「耕作者主義」と同様な考え方は,漁業法においても基本原理の1 つであると考えられる(潮見博士のいう自営者免許の原則)。我妻鑑定書も,昭和24年の漁業改革においても農地改革の耕作者主義と同じくみずから漁業を営む者に漁業権を与えようとしたと述べていることは前述した(3-1.(1))。漁業法制において農作業従事要件に該当するのが,漁業協同組合の組合員たる資格についての水産業協同組合法上の規定であり,「当該組合の地区内に住所を有し,かつ,漁業を営み又はこれに従事する日数が一年を通じて九十日から百二十日までの間で定款で定める日数を超える漁民」(同法18条1 項)として,日常的に漁業に従事する地区在住の漁民であることをもって,漁協の組合82 楜澤能生「農地所有権とコモンズ」『コモンズ・所有・新しい社会システムの可能性  小繋事件が問いかけるもの』(早稲田大学21世紀COE《企業法制と法創造》総合研究所「基本的法概念のクリティーク」研究所,2007年)119頁以下。