高知論叢107号

高知論叢107号 page 93/180

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共同漁業権論争の現在的地平91員であることの基本的な要件としている。そして漁業権においても「切断のコントロール」機能が働いている。漁民たちと海との関係が維持されることを通じて,漁民は,漁村部落の地先水面....

共同漁業権論争の現在的地平91員であることの基本的な要件としている。そして漁業権においても「切断のコントロール」機能が働いている。漁民たちと海との関係が維持されることを通じて,漁民は,漁村部落の地先水面のことを「われわれの海」と呼んできており,この「われわれの海」を「地先権」という権利として主張する見解がある83。地先水面を「われわれの海」と呼んで,「地先権」により地元の漁協等がその水面の利用秩序を管理・調整するという慣習は,各地に広汎に存在している。特にマリン・レジャーによる地先水面の利用に関する「地先権」の慣習は,「法令に規定されていない事項に関するもの」であるので,公序良俗に反しない限り「法律と同一の効力を有する」,すなわち慣習法である(法適用通則法3 条(旧法例2 条)),と解されている84。緒方は既にダイビングスポット利用をめぐるダイビング事業者や顧客と漁業との競合関係から生じる軋轢について,高知県幡多群大月町柏島及び静岡県沼津市大瀬崎地区の事例を取り上げ,漁業権ないし地先権を根拠として,関係者によるローカルルールという秩序形成の可能性について検討を行った85・86。83 浜本幸生「浜本幸生の漁業権教室」浜本監修・著・前掲書(注3 )71頁。84 田平・前掲論文(注13)153頁。池田恒男「判批」佐竹五六・池田恒男他『ローカルルールの研究  海の『守り人』論2 』(まな出版企画,2006年)86頁以下。85 緒方・前掲論文①91頁以下,前掲論文②57頁以下(いずれも注2 )。86 高村学人「コモンズ研究の法社会学に向けて:企画趣旨説明」法社会学73号142頁(2010年)は,E・オストロムが,コモンズの長期的存在条件として次の8 つを掲げたうえで,とくに組織内に紛争解決のメカニズムが備わっていることを挙げていることに着目する。すなわち,コモンズをいかに利用し,管理したらよいかという一次ルールは,コモンズの構成員間の紛争を通じて再吟味され,紛争解決の過程を通じて最もふさわしいルールが発見される。紛争経験はルール総体の進化に寄与することになる。オストロムの挙げる8 項目とは,①コモンズの境界が明らかであること,②コモンズの利用と維持管理のルールが地域的条件と調和していること,③集団の決定に構成員が参加できること,④ルール遵守についての監視がなされること,⑤違反へのペナルティは段階を持ってなされること,⑥紛争解決のメカニズムが備わっていること,⑦コモンズを組織する主体に権利が承認されていること,⑧コモンズの組織が入れ子状になっていること,である。この8 項目については浅子和美・國則守生「コモンズの経済理論」宇沢弘文・茂木愛一郎編『社会的共通資本 コモンズと都市』(東京大学出版会,1994)85頁以下も参照。なお,共同漁業権漁場における詳細な管理はこの8 項目に該当すると,日高健「沿岸域利用と漁業─コモンズの視点から─」倉田亨編著『日本の水産業を考える─復興への道─』(成山堂書店,2006年)173頁注(29)は述べる。