高知論叢107号

高知論叢107号 page 94/180

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92 高知論叢 第107号4 今後の課題以上のように,漁業権放棄手続,漁業権放棄時の補償金の帰属及び漁業被害に対する漁業権に基づく差止め請求の可否の三つの論点からそれぞれ判例を検討し,あわせて学説の整理を行....

92 高知論叢 第107号4 今後の課題以上のように,漁業権放棄手続,漁業権放棄時の補償金の帰属及び漁業被害に対する漁業権に基づく差止め請求の可否の三つの論点からそれぞれ判例を検討し,あわせて学説の整理を行った結果,漁業法上の漁業権,とりわけ共同漁業権は,法解釈的には総有説を採用し「入会」の現代的な姿であると解するほうが,協同組合の社員権的権利とするよりも無理が少ない。社員権説に立つとみられる最高裁平成元・7・13[8]判決は変更されるべきであるが,漁業権設定海域でダイバーから半強制的に潜水料を徴収することの可否が問われた訴訟において最高裁は,漁業権の法的性質に言及することなく判決を下しており,(最高裁平成12・4・21)87社員権説は依然先例として維持されている。判例及び学説の検討をさらに進め,この点に関する議論を今後も続けていくことが必要である。また,漁業法の平成13年改正が裁判所の判断に影響を与えるのかといった観点からも,判例の今後の動向が注目されるところである。本稿で検討したのは主として訴訟において論争となる共同漁業権であり,その判例・学説上の性質如何ということであったが,共同漁業権だけではなく,定置漁業権および区画漁業権を含めた漁業権全体について,その権利がどのような性質を持っているのか,持つべきであるか,理論的にさらに検討し,漁業権の総体を明らかにしていくことが必要である。また,共同行業権は社会的現実の中で現に機能している権利であり,漁業権の現実的機能を実態から明らかにしていくことが必要である。共同漁業権の現実的な姿について,現地実態調査の結果を踏まえてすでに一部を公表しているが88,理論的検討と同様,より調査,研究の範囲を拡げ,漁業権を総合的に研究していくことが求められる。87 池田恒男「共同漁業権を有する漁業共同組合が漁業権設定海域で潜水を楽しむダイバーから徴収する潜水料の法的根拠の有無」(『東京都立大学法学会雑誌』42-1 393-407頁,42-2 251-264頁及び43-2 503-515頁 2001,2002,2003年)88 緒方賢一「漁業権による沿岸海域の管理可能性」高知論叢98号,89-113頁,2010。