高知論叢107号

高知論叢107号 page 95/180

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共同漁業権論争の現在的地平93沿岸海域および河川流域において水産資源を持続的に利用していくためには,資源そのもののみに注目しても十分とはいえず,周辺環境も適正に管理されるべきである。我々の研究の基本的視....

共同漁業権論争の現在的地平93沿岸海域および河川流域において水産資源を持続的に利用していくためには,資源そのもののみに注目しても十分とはいえず,周辺環境も適正に管理されるべきである。我々の研究の基本的視座である「共」的な資源管理,環境維持という面から漁業権,漁場,漁村および漁業者を見ることによって,漁業権のもつ入会権的性格の重要性がさらにはっきりする。共同漁業権のうち第1 種および第2 種共同漁業権は,一定の水面を区切って適用範囲が定められる権利であり,内水面の漁業権である第5 種共同漁業権も河川「流域」を適用範囲に持つ権利である。入会権と同様,一定の区域を適用範囲としている権利であるという共通点があり,この点で入会権と同様に漁業権も周辺環境の管理可能性を内包しているものと見ることができる。さらに区画漁業権は養殖漁業に関する漁業権であり,定置漁業権は定置網漁業に関する漁業権であるが,いずれも基本的には共同漁業権の設定範囲に近接して許可され,営まれている。したがって,共同漁業権のあり方を論じる際には,いわばその上にのっている定置漁業権および区画漁業権についても考慮されなければならない。結局のところ,いわゆる「地先の海」を誰がどう管理するのか,という課題に対して,漁業権がどのような役割を果たしうるのか,あるいは漁業権がどう再構成されるべきかといった検討は,ひとり共同漁業権のみではなく,定置漁業権,区画漁業権も含めた漁業権全般について検討すること,および理論と実態の両面から,あるいはそれを統合した形で検討することを要するのである。また,権利の主体ということを考える際,先述したように「関係地区」ごとに権利設定がなされているということから,漁業協同組合(の構成員)のみならず,伝統的に地先を管理してきた漁業集落および広い意味での漁業集落民を対象に含めて考えていかなければならない。そしてそのような漁業権の総体を捉えていく先に,地先の海の「共」的管理可能性が見えてくるものと思われる。こうした基本的な研究視角は,例えば2011年3 月に起こった東日本大震災からの復興を目指す地域の取り組みについて検討する際にも必要になると思われる。東日本大震災からの漁業・漁村の復興を目指して,宮城県では特定区画漁業権の免許の優先順位を変更する宮城県石巻市桃浦地区水産業復興特区を申請