高知論叢108号

高知論叢108号 page 10/136

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8 高知論叢 第108号いことは当然であるばかりでなく,社会的断種やその他の断種についてもそれが法的に理由のあるときは許され得ると解される。また現実にも同条の存在によって国民が広くその性的本能を満足させる....

8 高知論叢 第108号いことは当然であるばかりでなく,社会的断種やその他の断種についてもそれが法的に理由のあるときは許され得ると解される。また現実にも同条の存在によって国民が広くその性的本能を満足させる方法を奪われたり,幸福追求の権利を否定されるような事態が発生しているとも認められないから同条の禁止が広汎にすぎるために国民の幸福追求権などの基本的人権が侵害されているとは到底いい得ない。本件で問題となっている睾丸全摘出手術が,正当な医療行為としてなされたものであるならば優生保護法第28条に違反することはあり得ず,本件においてはたまたま一定の前提条件を欠くために治療行為と評価されなかったに過ぎず,同条が性転向症者の幸福追求権を特に侵害しているとも解せられない,との判断を示した。上記③における本件手術の構成要件該当性がないとの被告人側主張に対しては,以下の通り判断を示した。優生保護法は,優生手術に関して対象者の認定や審査等につき厳格な手続を定めているほか同法施行規則第1 条により術式が制限され,同法第28条により故なく生殖を不能にすることを目的として行う手術またはレントゲン照射を禁止しているが,同条は,単に優生学的断種に関する技術的制限規定にとどまるものではなく,優生学上の理由の有無にかかわらず去勢手術については治療行為等客観的に許容しうるものを除き禁止しているものと解することができる。また「生殖を不能とすることを目的」とする手術というのは,その手術により生殖が不能になることが客観的に明らかであり,そのことを手術者も認識して行うような手術であれば足り,本件睾丸全摘出手術が正当な医療行為として認められない以上,法律的には「生殖を不能にすることを目的」とする手術と評価せざるを得ない。上記④の犯意が無かったとの被告人側主張に対しては,以下の通り判断を示した。被告人は本件手術を性転換手術の一段階として行ったものであるが,それが前記の通り客観的に正当な医療行為の範囲を逸脱したものとされる以上,本件手術の外形的具体的事実を認識してこれを行った被告人に犯意がなかったとはいえないし,被告人が本件手術を違法でないと信じたことが全く無理からぬことであるとはいえないから,この点に関する弁護人らの主張も理由がない。なお,第2 の麻薬取締法違反事件については,Cは被告人とは小学校時代か