高知論叢108号

高知論叢108号 page 117/136

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金融商品会計プロジェクトフェーズ2にみるIASBの会計基準設定の要点の変化115クト開始時点からの問題意識を踏襲し,金融商品会計基準を複雑にしている問題として測定属性をとりあげ,単一の測定属性として公正価値....

金融商品会計プロジェクトフェーズ2にみるIASBの会計基準設定の要点の変化115クト開始時点からの問題意識を踏襲し,金融商品会計基準を複雑にしている問題として測定属性をとりあげ,単一の測定属性として公正価値を用いることで複雑性を低減することを提案した。しかし,金融危機を契機にIASB の金融商品会計プロジェクトでは,G20からの要請への対応を優先し,政治的な要因を含む会計基準の開発が求められた。2009年4月に金融安定化フォーラム(FSF)により公表された「金融システムにおける景気循環増幅効果への対応」の中で,公正価値会計の適用の検討,貸倒引当金設定方法の見直し(発生損失モデルの見直し)が指摘されたこと,金融危機への対応としてIASB とFASB の共同プロジェクトの一環として設置した金融危機諮問グループ(FCAG)により2009年7月に公表された報告書の中で,発生損失モデルの代替案の検討が提言されたこと,G20より2009年内という早急な対応を求められたことなどから,IASB は金融商品会計プロジェクトについてDP2008を踏襲しつつもプロジェクトを3つにわけて対応することとなった5。このうち,金融危機の対応として求められた貸倒引当金の設定方法の見直しにおいて問題とされたのは,IAS 第39号において償却原価で測定する金融資産の減損および回収不能(パラグラフ58~70)における減損の測定および認識であった。? IAS 第39号における金融資産の減損損失の認識IAS 第39号において減損の基準が適用されるのは,償却原価で計上されている金融資産,取得原価で計上されている金融資産,売却可能金融資産であり6,減損損失を認識するために「客観的証拠(objective evidence)」が必要とされている。IAS 第39号において客観的証拠は,当初認識後に発生した1つ以上の損失事象であり,その損失事象が信頼性をもって見積もれる影響を有していることが求められている7。また,損失事象の発生の可能性が高くとも(likely),将来事象の結果として予想される損失は認識しないとしている8。金融危機対応の中で問題とされたのが,この発生損失モデル(incurredlosses model)による減損損失の認識ということであった。IASB はIAS 第39