高知論叢108号

高知論叢108号 page 14/136

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12 高知論叢 第108号2 優生保護法違反を肯定する見解? 金沢文雄の見解まず,刑法学者のうち,優生保護法違反を肯定する見解として,金沢文雄の判例評釈から確認しよう。金沢は,控訴審判決の判例評釈において,....

12 高知論叢 第108号2 優生保護法違反を肯定する見解? 金沢文雄の見解まず,刑法学者のうち,優生保護法違反を肯定する見解として,金沢文雄の判例評釈から確認しよう。金沢は,控訴審判決の判例評釈において,「判旨に賛成」16としたうえで,以下のように述べている。性転換手術は,刑法的には一応,傷害罪の構成要件に該当し,または,本件のようにその去勢だけについて優生保護法28条の構成要件に該当すると解される点については疑問がない17。問題は,このような手術がいかなる場合に正当化されうるかという点にある。なんらの疾患がないのにただ性を転換したいという本人の恣意的な希望にしたがって性転換手術を行うならば,その行為は正当化されえない。承諾傷害が正当化されるためには,第1 に傷害の程度が軽微であること,第2 に,公序良俗に反しないこと,その他の条件が必要である。性転換手術はその侵害の重さからいって単なる承諾では正当化されえないことは,すでに優生保護法28条がより軽い断種ですら単なる承諾によっては正当化されないことを明示していることからも明らかであるが,より重要な疑問として,本人の全人格の人工的変更を意味するという点で,人間の尊厳を基本とする法秩序の精神に矛盾することは明らかであり,また,それは現代の法秩序の基礎となっている男女両性の不可変性の原則をくつがえすという点においても法秩序の立場からとうてい是認できないものである18。性転向症者に対する性転換手術が正当化されうる可能性は,それが治療行為の領域内に含まれるものとして構成される以外にはない。そこで,性転向症が果たして「疾病」であるか,性転換手術がそれに適応した治療行為であるかという点が医学的および法律的に厳密に検討されなければならない19。控訴審判決について,原審が本件手術の適応を一応認めるのに対し,原審が示した基準のイロハは適応の判断に必要な手続に関するから,これを欠く以上16 金沢文雄「新判例評釈 一.正当な医療行為にあたらないとされた事例 二.優生保護法28条の『手術』の意味」『判例タイムズ』280号(1972年)91頁。17 同上。18 同上。19 同上。