高知論叢108号

高知論叢108号 page 15/136

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性転換手術と刑法に関する一考察13は適応は認められないはずであり,判旨?が適応を否定したのは妥当であるとする20。なお,原審が示した基準のハニなどは,解釈論としては正当化のための必要条件とまでは解すべきで....

性転換手術と刑法に関する一考察13は適応は認められないはずであり,判旨?が適応を否定したのは妥当であるとする20。なお,原審が示した基準のハニなどは,解釈論としては正当化のための必要条件とまでは解すべきではないとする21。「治療の目的」については,原審はこれに触れていないが,治療の目的は疾病の認識を前提とするから,被告人が疾病の確認に必要な調査を行っていない以上,疾病の認識がなく,したがって治療の目的がなかったと認定されたのは当然として,これを明示的に否定した判旨?を支持する22。判旨?の,優生保護法28条の「手術」には優生手術のみならず去勢も含まれるとの解釈については,文理解釈として十分可能であり,去勢を同条から除外して別に傷害罪の成立を考えなければならない実質的理由はないとして,判旨は妥当であるとする23。「生殖を不能にすることを目的として」という点については,不妊化そのものを目的とするものでないという点で若干問題があるが,本条は一定の場合以外には不妊化手術を禁止する趣旨の規定であるから,その手術で生殖が不能となることを認識して行えば足りるとする判旨は妥当であるとする24。また,傷害罪と優生保護法とは普通法と特別法の関係にあり,特別法たる優生保護法違反罪が成立する以上,傷害罪は成立しないとする25。? 宮野彬の見解次に,金沢と同様に刑法学者で,優生保護法違反を肯定する宮野彬の控訴審判決の判例評釈を確認しよう。宮野は,身体の享有者自身あるいはその同意の下で,身体の変更行為が無制限に許されるかという問題について,生得の身体の機能を根本的に変更するような行為は禁止され,優生保護法28条は,生殖不能という重大な身体変更に関して,法が特にその立場を明確にしたものであると述べる26。本件の争点の一つとなった,優生保護法28条の手術の範囲につい20 金沢・前掲注?93頁。21 同上。22 同上。23 金沢・前掲注?94頁。24 同上。25 同上。26 宮野彬「正当な医療行為」『刑法判例百選Ⅰ総論』(1978年)76頁以下。