高知論叢108号

高知論叢108号 page 16/136

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14 高知論叢 第108号ては,同法2 条で生殖腺を除去しないで生殖を不能にする優生手術の断種を含む以上,それよりも身体変更の程度の著しい本件のような去勢手術が含まれるのは当然とする27。また,本件のごとき去勢....

14 高知論叢 第108号ては,同法2 条で生殖腺を除去しないで生殖を不能にする優生手術の断種を含む以上,それよりも身体変更の程度の著しい本件のような去勢手術が含まれるのは当然とする27。また,本件のごとき去勢手術が,同法1 条でいう優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する目的で行われるときには,特別法たる優生保護法によって行為は正当化されるが,本件にはこのような目的は存在しない28ため,刑法35条の正当業務行為といえるかが論点となる。治療行為が正当化されるためには,主観的には医師に治療の目的があること,客観的には患者の現実的もしくは推定的同意があり,医学上一般的に承認されている方法によることが要求されるが,本件のような真性の男性で性転向症者に関してはその治療行為性につき医学界でも肯定するにつき多くの疑問が出されており,性転向症が,もっぱら精神的疾患であるといわれているのに,精神医学的ないし心理学的な療法によらずに外科的方法のみに頼った点は妥当ではなく,治療に名を借りて批判の余地のある手術を営利のために軽率に実施したと受け取られてもやむを得ない29。行為に治療的性格が失われるならば,刑法上は主観的にその目的があったとはいえず,行為の違法性を阻却しない30。なお,原審は性転換手術が法的に正当な医療行為として認められるための条件を詳細に提示するが,親切な指摘とはいえても,そのような抽象的基準をたてなければ具体的事案が解決しえないものではなく,条件のほとんどは,通常事実認定の過程で検討されるとしている31。なお,宮野は本件優生保護法違反の他に傷害罪が成立するかという点については,観念的には傷害といえるが,優生保護法28条の立法趣旨と傷害罪の成立を認めれば刑は常に傷害罪の範囲で決められてしまい優生保護法34条が没却されてしまうことから,別に傷害罪を考慮する必要はないとしている32。27 宮野・前掲注2677頁。28 同上。29 同上。30 同上。31 同上。32 同上。