高知論叢108号

高知論叢108号 page 18/136

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16 高知論叢 第108号異なる点があるとしても原審の判断をほぼ全面的に認めている39。優生保護法28条の「手術」には,断種のみに限らず去勢をも含むとの勿論解釈は一応可能である40。「生殖を不能にすることを目的と....

16 高知論叢 第108号異なる点があるとしても原審の判断をほぼ全面的に認めている39。優生保護法28条の「手術」には,断種のみに限らず去勢をも含むとの勿論解釈は一応可能である40。「生殖を不能にすることを目的として」については,弁護人らの主張するように不妊化そのものを目的とするものではないが,原判示のようにその手術により生殖が不能になることを認容して行えば足り,被告人にこの認識があったとする本件判旨を妥当とする41。そして,治療行為としての正当性をもちえないとすれば傷害罪の成立が問題となる事案とも考えられるが,本件の場合承諾があっても重い傷害への承諾は違法性を保持するなど傷害罪の成立を認める見解は,将来はともかく現段階では理解しやすいとする42。性転向症者の治療方法としての性転換手術については,医家の自己規制に待つべきものではないかとの見解を示しつつも43,安易な考えから非合法な手術の横行しないよう厳格な一線を画すべきことはいうまでもない44と強調しており,この見解自体が高島の当該手術に対する捉え方を示しているともいえよう。? 富田孝三の見解原審の検察官であった富田45も,第1 審判決の判例評釈において,優生保護法の文理上の困難に言及しつつも,優生保護法違反を以下の通り支持している。富田によれば,まず,被告人に治療目的があったか否かの点について本判決は全く言及していないが,被告人が治療の目的で本件手術を行うなどということは考えられない46。被告人は性転換手術について数多くの臨床経験を有する者でなく,また本判決の判断資料となった被告人側提出の性転換手術に関する文献等の中には,被告人自身が予て所持していたものや蒐集したものは一つもな39 高島学司「性転換手術と優生保護法二八条」『医事判例百選』(1976年)203頁。40 同上。41 同上。42 同上。43 同上。44 同上。45 石田仁=矢島正見(解説)「ブルーボーイ裁判資料」『法とセクシュアリティ』3 号(2008年)123頁。46 富田孝三「性転換手術と刑事責任」『法律のひろば』第23巻第5 号(1970年)22頁。