高知論叢108号

高知論叢108号 page 19/136

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性転換手術と刑法に関する一考察17くすべて起訴後になって弁護人が主としてその方面の専門家の意見や指示に従い逐次蒐集提出したものであり,被告人自身は本件当時治療行為として性転換手術が行われていたことすら知....

性転換手術と刑法に関する一考察17くすべて起訴後になって弁護人が主としてその方面の専門家の意見や指示に従い逐次蒐集提出したものであり,被告人自身は本件当時治療行為として性転換手術が行われていたことすら知らなかった47と指摘する。次に本件性転換手術が医学上一般的に承認しうる方法といえるかにつき,アメリカにおいても僅かに地方の一病院であるジョンホプキンス病院(原文ママ,以下同様……筆者注)でそれも研究的予備的に実施しているに過ぎず,かかる程度では判決のいうように次第に医学的に治療行為としての価値を認められつつあるとまではいいうるか否かは疑問であり,まして治療行為として医学上一般に承認されているとは到底いい得ず判例自体もそのようには評価していない48。仮に本件手術が治療行為としての価値を認められるとしても本件の如きそれが最善の方法かどうか未確定の現段階で生殖能力を失い中性化するという極めて重大な結果を生ずる不可逆的手術を行うについては,医師はよく利害得失を比較考量してことを決すべきであって,かかる手術はジョンホプキンス病院において実施しているごとく研究的方法によってのみ,なされるべきであって本件の如く安易な治療行為としてなされるべきではないとする49。更に,判決は優生保護法第28条の「生殖を不能にすることを目的」とする手術というのはその手術により生殖が不能になることが客観的に明らかであり,そのことを手術者も認識して行うような手術であれば足りるとしているが,文理解釈上いささか無理との批難が考えられないでもないが,この法律の目的に合した正当なものというべきであるとする50。最後に被告人の行為が,刑法上同意傷害を成立させるかとの点については,本件の場合,優生保護法違反のほか傷害罪も成立し,その観念的競合とみるべきであるとしている51。? 鈴木義男の見解上記?までの見解と異なり,当時検察官の職にあった鈴木義男の見解は,性47 同上。48 富田・前掲注4622頁以下。49 富田・前掲注4623頁。50 同上。51 同上。