高知論叢108号

高知論叢108号 page 20/136

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18 高知論叢 第108号転換手術そのものの社会的意味に力点が置かれ,それとの関係で刑事制裁の運用を論じている点に特色があるといえようか。鈴木は,本件第1 審判決について,性転向症に対する性転換手術の合法性と....

18 高知論叢 第108号転換手術そのものの社会的意味に力点が置かれ,それとの関係で刑事制裁の運用を論じている点に特色があるといえようか。鈴木は,本件第1 審判決について,性転向症に対する性転換手術の合法性という未開拓の分野に正面から取り組み,医学の進展を十分に考慮した一つの方向づけを与えようとしたことには,十分の敬意を払わなければならないとしながら,法律学および医学の両面からさらに研究を重ねる必要があるだけでなく,今後における医学の発展によってあらたな角度からの再検討が促されるという可能性もあり,いま直ちにこの問題に関する終局的な解決を望むことは不可能であるとしながら52,今後の検討に資するという趣旨で以下の問題点を挙げる。第一に,医学上の疑問として,いわゆる性転向症を病気とみることができるとしても,肉体的には特段の異常がないのであるから,広い意味における精神障害の一種ということになろうが,欲望が異常であるということ以外にどういう精神医学的症状が生ずるのかは,本件判決で検討された医学的な資料からは必ずしも明らかでない53。しかも,欲望という意思ないし行動の面だけに存在する異常性は,本人の自由な選択に基づいているのか病的な原因によるのかを区別することが容易でなく,また,病的とみられる場合とそうでない場合との違いも程度の問題にすぎないことが多い54。本件判決が性転換手術の実施にあたっては精神医学をも含めた総合的判断を経る必要のあることを特に強調している(イロハ)のは,この点からみて十分に理由のあることであるが,「一応……性転向者であることを推認することができる」という程度の判断しかできなかったことからみても,その診断は極めて困難なものであることがうかがわれるとする55。さらに,性転向者に対しての治療方法として性転換手術を行なうことが適当かどうかについても,疑問を示している56。本判決のように「次第に医学的にも治療行為としての意義を認められつつある」といってよいかど52 鈴木義男「性転換手術は許されるか」(1969年)臼井慈夫=鈴木義男=木村栄作『刑法判例研究Ⅲ』(大学書房,1975年)71頁以下。53 鈴木・前掲注5272頁。54 鈴木・前掲注5272頁以下。55 鈴木・前掲注5273頁。56 同上。