高知論叢108号

高知論叢108号 page 21/136

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性転換手術と刑法に関する一考察19うかも問題であろうとする57。第二に,社会倫理ないし法の立場からみた疑問として,本件判決は,性転換手術に対する医学的な評価から出発して,一定の厳格な前提条件の下でそれが許....

性転換手術と刑法に関する一考察19うかも問題であろうとする57。第二に,社会倫理ないし法の立場からみた疑問として,本件判決は,性転換手術に対する医学的な評価から出発して,一定の厳格な前提条件の下でそれが許されるという法的な結論を直ちに導き出しており,法的な問題点の検討にやや欠けるところがあるとしている58。性転換手術が,人間のあり方に関する自然の理法に反し,道徳的にも嫌悪すべきものとする感情が,わが国においてもなお支配的であると思われ,こういう一般的な道徳感情は,この問題に対する法的評価において十分に考慮されなければならないだけでなく,医学界においてさえ性転換手術に対する消極的な空気の強いことの背景をなしているとする59。優生保護法は,その運用にかなりルーズな面のあることはしばしば指摘されているところであるが,規定の全体を総合的に考察すれば,国民一般の生殖能力を維持するという観点に十分の考慮を払っていることが明らかであり,優生保護法第28条にいう「故なく」という言葉が,正当な医療行為を処罰の対象から排除する趣旨であることはいうまでもないが,その直前の「この法律の規定による場合のほか」という部分とあわせて理解すれば,単に治療目的で手術をしたとか,そういう手術をすることも治療方法の一種とみる余地があるとかだけでは足りず,現段階における医療の水準からみて一般に承認されているような治療方法として行われる場合にだけ,手術の違法性が否定されるという趣旨を汲みとることができるとする60。現在の法が性転向症に対する性転換手術や治療を目的とする同性愛行為を禁止しても,有効かつ正当な治療行為であることを信じ,法の制裁を覚悟のうえでこれを実施する少数の医師がでるのは防げず,本件被告人のように男娼等の依頼によって内密にこれを実施する医師もあるであろう61。違法に実施されるものであっても,手術の実施例が集積され,効果が確認されることになれば,57 鈴木・前掲注5274頁。58 同上。59 同上。60 鈴木・前掲注5274頁以下。61 鈴木・前掲注5276頁。