高知論叢108号

高知論叢108号 page 22/136

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20 高知論叢 第108号医学界の評価はもとより,一般国民の受け取り方にも変化が生ずることも考えられ,医学その他の科学に対する法の立場は流動的なものであることを免れないとする62。鈴木の見解において,性転換手....

20 高知論叢 第108号医学界の評価はもとより,一般国民の受け取り方にも変化が生ずることも考えられ,医学その他の科学に対する法の立場は流動的なものであることを免れないとする62。鈴木の見解において,性転換手術の社会(国民の受け取り方や医学界での評価)での位置付けによって法の立場が流動的であることを指摘している点は,妥当なものといえよう。但し,そこで前提とされている性転換手術やトランスセクシュアルについての捉え方は,現在からみるとかなり時代的制約が強いようにも思われる。そして,特に刑事法の運用という観点からは,流動的な立場に立たざるを得ない法の立場において,刑事法が如何にあるべきかについての検討が必要ではなかったであろうか。3 優生保護法違反とすることの問題に言及する見解? 植松正の見解植松は,第1 審判決の判例評釈において,「判旨は大局において正当と評すべき」63であるとしながらも,本件去勢手術を優生手術とすることについては,下記の通り明確に疑問を提起している。以下,植松の見解を確認する。優生保護法第28条の法文の解釈について,「生殖を不能にすることを目的として手術……を行ってはならない。」となるのだから,判旨は,無理なことを敢えてしている。被告人側の主張は,「目的」を当該行為の主観的意図と解しているのに対し,判旨はこれを手術そのものの客観的性質と解しているが,判旨の解釈が無理なく成り立つためには,「目的とする手術を……」となっていなくてはならない。しかし,判旨のように解釈する方がこの法律の目的には合っており,この法律の立法技術的な欠陥のために,こういうことにならざるを得なかったのであろうとする64。性転向症は精神的疾患であり,現代の医療体系では,これに外科的治療を施すことは,最後の手段であると考えるのが常識である。性転向症の治療手段と62 同上。63 植松正「性転換手術の適法限界」『判例評論』第129号(1969年)126頁。64 同上。