高知論叢108号

高知論叢108号 page 23/136

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性転換手術と刑法に関する一考察21して重大な器官の除去を伴う手術をするには,よほどの必要性が確認される場合でなければならず,そのことは判旨摘録の示すように,医学界に強い反対のあることから考えても当然のこ....

性転換手術と刑法に関する一考察21して重大な器官の除去を伴う手術をするには,よほどの必要性が確認される場合でなければならず,そのことは判旨摘録の示すように,医学界に強い反対のあることから考えても当然のことである。ただ判旨が,しきりに単独の判断をもって処置したことを非難しているが,単独の判断か二人以上の判断かということに,あまりこだわるのはよくないとする65。被告人の行為が治療行為たり得ないとしたら,刑法学上,同意傷害の事実が明らかに存在しており,それが最大の論点である。本件行為が優生手術に名を借り,その外形をもって行われたものであるから,そのことに眩惑されてはならない。検察官は優生保護法違反として起訴し,受訴裁判所も同意傷害のことには目をつぶったのであろうが66,重大な傷害の場合,同意があるからといって放任すべきではなく,一般の傷害罪の規定を適用すべきであり,本件もこれに該当するとの見解を示している67。植松は,本評釈に先立って,1965年に本件が傷害罪ではなく,優生保護法違反として起訴された段階において,以下の見解を表明している68。同意傷害について,「文化規範」「社会通念」「健全な常識」を基準として考えれば,同意傷害の特別規定がないからといって,どんな重傷害を与えても,同意さえあれば違法でないというのはおかしい。重い同意傷害を罰するのには,普通の傷害罪規定によることになるが,傷害罪は法定刑が広く,同意傷害には軽い方を適用すれば不当な結果を来さない。よって,同意があっても,重大な傷害を加えれば,傷害罪にあたり,その場合に適用される法条は一般の傷害の場合と同じ刑法第204条でよいとする69。そもそも一般に同意傷害でも,重大な場合には傷害罪になるということを考えるに至ったのは,優生手術に関する法的規制があり,優生手術が一定の要件のもとにおいてでなければ許されていないという事実に思い及んだためで65 植松・前掲注63126頁以下。66 植松・前掲注63127頁。67 同上。68 植松正「性転換の手術」『時の法令』553号(1965年)69 植松・前掲注6820頁以下。