高知論叢108号

高知論叢108号 page 24/136

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22 高知論叢 第108号ある70。優生手術などというものは,いくら本人が希望する場合にでも,施すことができないということを明らかにしている。「医師は……行うことができる。」というのは,一定の要件のある場合に....

22 高知論叢 第108号ある70。優生手術などというものは,いくら本人が希望する場合にでも,施すことができないということを明らかにしている。「医師は……行うことができる。」というのは,一定の要件のある場合に限り,医師にだけ行うことを許すという意味であることは明白だから,医師でない者には全く許されない。また,優生手術というのは,「生殖腺を除去することなしに,生殖を不能にする手術」と定義されているが,生殖腺をも除去するという方法は,除去しない方法よりも重大な結果をもたらす手術なのだから,許されておらず,それは医師にも許されていない71。そうすると,本件の性転換手術は生殖腺除去も行ったのであるから,医師にさえ許されない手術であり,もう二つの手術も併せて,どれをとってみても重大な変化を人体にもたらすものであり,本人の同意にまかせてしまって構わないという性質のものではない72。この事件を,優生保護法違反と見る方が,かえって少しおかしいのではないか。この医師は優生手術として法律の定義している手術を行ったのではなく,別のことをやったのである。定義外のことをやったから,当局は同法違反と考えたのかもしれないが,この性転換手術の目的は,まさに端的に男性を女性にすることにあるのであって,生殖を不能にすることを目的としているのではないだろう。優生保護法違反と認めることの方が難儀なように思える73。? 町野朔の見解町野朔は第1 審判決の判例評釈において,概ね判決に好意的な評価を与えつつも,優生保護法における強制断種の問題性に言及しつつ,本件去勢手術を任意断種と比較してその不均衡を指摘してもいる。町野の見解は,概ね以下の通りである。地裁の判旨は,性転換手術を当該男娼達に行うことが医学的に良好な結果を生むかについての十分な調査を,事前に行わなかったことを理由として本件被告人の行為の正当性を否認するが,この論旨は不当とはいえない74。70 植松・前掲注6821頁。71 植松・前掲注6822頁。72 同上。73 植松・前掲注6823頁。74 町野朔「性転換手術」『続刑法判例百選』(1971年)259頁。