高知論叢108号

高知論叢108号 page 26/136

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24 高知論叢 第108号する78。被告人の行為を処罰しても,本件男娼らのような性転向症者が,合理的な手段で性転換手術を受ける機会が否定されたのではないから,彼らの幸福追求の権利を侵害したことにはならないとい....

24 高知論叢 第108号する78。被告人の行為を処罰しても,本件男娼らのような性転向症者が,合理的な手段で性転換手術を受ける機会が否定されたのではないから,彼らの幸福追求の権利を侵害したことにはならないという判旨は正当であるとする79。また,生殖能力という本人にとって重大な法益を放棄しようとする者の利益を考慮して,合理的理由に基づく断種・去勢行為以外を処罰することは,必ずしも不当ではない80。さらに,判旨指摘の通り「現実にも同条の存在によって国民が広くその性的本能を満足させる方法を奪われた」と感じられていない日本の状態では,違憲性の主張はあまり説得力をもたないことも認めざるを得ない81。以上の通り,大筋で判旨を認めてはいるが,以下の問題を提起している。優生保護法は,戦前の国民優生法から,さらに強制的断種の制度を大幅に拡充しており,28条も,被手術者の利益保護というよりは,むしろ素質ある国民が恣意的に断種手術を行うことから生じうる「逆淘汰」現象の防止という,国家的利益の保護を眼目とするものであるが,「不良な子孫の出生の防止」ということを公益として認め,強制断種あるいはこの公益に反する国民の行為を処罰するということが国家に許されるのかは大きな問題とする。優生保護法は,民族改良思想を継受しつつも,戦後の過剰人口問題に対処する過程で,医師が行う妊娠中絶,任意断種については,事実上自由に行われているのは公知の事実であり,取締側も黙認の態度をとっている。判旨によれば,優生保護法違反として起訴されたのは,本件が初めてであり,本件被告人の行為は,たまたま不適当な性転換手術という形態をとったがために起訴され,有罪判決を受けてしまった。本人の同意を得て,個人の法益である(少なくとも第一義的にそうであることは認められている)生殖能力を傷害する行為が処罰される結果をもたらしたことは,不均衡な法の運用だという感を免れえない82。本件は,わが国の現実を前にして,わが国の法が,性について,これからどのような態度で,78 同上。79 同上。80 町野・前掲注74261頁。81 同上。82 同上。