高知論叢108号

高知論叢108号 page 28/136

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26 高知論叢 第108号はないとしている87。したがって,本件被告人が行った性転換手術における去勢は,不妊化を目的として行われた手術ではないため,母体保護法の関与するところではなく,傷害罪で議論されるべきも....

26 高知論叢 第108号はないとしている87。したがって,本件被告人が行った性転換手術における去勢は,不妊化を目的として行われた手術ではないため,母体保護法の関与するところではなく,傷害罪で議論されるべきものとしている88。このように,性転向者に対して性転換手術の一段階として行われた去勢は,母体保護法違反ではなく,刑法の傷害罪の議論対象となるが,わが国は性転換手術を治療行為として認めていない。そのため,その違法性阻却の可能性を「被害者の承諾」に求めることになる89が,性転換手術の実施は,被害者の同意のみではその違法性阻却の可能性がまずないことから,危ういものになってしまい,手術の実施は不可能になってしまう90。性転換手術は,「治療行為」という枠にはめて考察することによって,その実質的な治療行為性が確実かつ肯定的に解決されうる91。そして,性転換手術が法的に正当な治療行為と認められるためには,第1 審判決の掲げている5 つの項目がその要件とされる92が,性転換手術の治療行為性の問題をより確実かつ積極的に解決するためには,その正当化の要件を法定化し,立法的解決を図ることが必要になるとしている93。猪田の見解は,母体保護法違反ではなく傷害罪の問題として本件手術を位置付けているところが注目されよう。同法の手術に去勢を含むとする点は,同手術の実体との関係ではなお検討を要するようにも思われるが,傷害罪の成否をどのような場合に正当化されるかとの観点から第1 審判決の5 要件の法定化を主張する点は,埼玉医科大学の性別適合手術(性転換手術)の際の議論と方向性において同方向のものともいえようか。ただし,当時の事案の解決方法として,傷害罪であれば適切であったかとの疑問への明快な回答は読み取れないようにも思われる。87 猪田・前掲注84102頁以下。88 猪田・前掲注84103頁。89 猪田・前掲注84105頁。90 猪田・前掲注84115頁。91 同上。92 猪田・前掲注84126頁以下。93 猪田・前掲注84135頁。