高知論叢108号

高知論叢108号 page 29/136

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性転換手術と刑法に関する一考察27? 石原明の見解刑法学者の石原明の見解も,猪田と同様に性転換手術の正当化を傷害罪の成否との関係で検討するものであり,その正当化を志向するものと位置付けてよいかと思われる....

性転換手術と刑法に関する一考察27? 石原明の見解刑法学者の石原明の見解も,猪田と同様に性転換手術の正当化を傷害罪の成否との関係で検討するものであり,その正当化を志向するものと位置付けてよいかと思われる。石原は,1997年の論稿で以下の通り述べている。真性の性転向症は苦しい精神的葛藤をかかえる病態であり,その法律問題としては,刑事問題と民事問題がある94。刑事問題については,現在の医療技術からしても,性転換手術はまだ生殖能力を付与できるまでには至っていないため,母体保護法上の罰則や刑法の傷害罪の規定に抵触する側面をもつ95。そこで,性転換手術がどのように合法化されるかという法律問題を検討するにあたり,本件を考察する96。性転換手術は重大な医的侵襲を伴う措置であることから,その行為が正当化されるためには正当な治療行為であるとみなされる必要がある97。本件第1審判決では,その治療行為性に関して詳細な検討が行われている98。本判決で示された要件は,この問題に関する現在のわが国の議論状況からすれば概ね妥当なものと考えられ,こうした前提が守られる限り,この手術を治療行為と位置づけて,正当化する道は開かれているものと考えたいとする99。真性の性転向者に対する性転換手術が「治療行為」として位置づけられるなら,母体保護法28条や刑法の傷害罪の規定をクリアーすることができる可能性はあるが,その合法化を母体保護法上の「故なく」という短い用語の解釈論としてこれらの重要な問題をここに含ましめることは,法の明確性にもとることになり,母体保護法のこの規定は,本来は国の人口構成の維持を図ることを保護法益とし,性転換の問題とはもともと別の意味をもつものであるから,法的にそれを整備する際は,母体保護法の一部改正というようなものではなくて,“性転換に関する法律”といったものが必要である100。わが国でも,個人の尊重94 石原明「性転換に関する法律問題」『医療と法と生命倫理』(1997年)56頁。95 石原・前掲注9460頁。96 同上。97 石原・前掲注9463頁以下。98 石原・前掲注9464頁。99 石原・前掲注9466頁。100 石原・前掲注9467頁以下。