高知論叢108号

高知論叢108号 page 30/136

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28 高知論叢 第108号や幸福追求権といった憲法レベルでの議論を必要であるとする101。99年の論稿では,性転換手術の治療行為性の検討と併せて,本件の量刑事情に着目し,これまでこの有罪判決のために,医学界でも....

28 高知論叢 第108号や幸福追求権といった憲法レベルでの議論を必要であるとする101。99年の論稿では,性転換手術の治療行為性の検討と併せて,本件の量刑事情に着目し,これまでこの有罪判決のために,医学界でも性転換手術はタブーだとされてきたが,量刑事情にみられる寛刑表明や,判決で述べられた治療行為性の前提条件が今では医学の分野で慎重に検討され指針が作られており,必ずしもこの裁判例をもって性転換手術をタブー視することはないとする102。刑法傷害罪との関係については,本判決は,母体保護法と刑法とを特別法と一般法との関係にあるとみて,特別法としての母体保護法の罰条のみを適用したものであるが,97年論稿でも論じられているように,母体保護法の法益は,性転換手術の問題とは別の意味をもつので,本来は刑法傷害罪との関係で問題を議論すべきであったとし,その治療行為性を論議することによって正当化する道が開かれ,このような角度からの論議を展開することが,本筋からのアプローチであるとしている103。以上のように,母体保護法の適用を明快に否定していることは注目されるものの,本事件がその当時の時代において処罰されることの妥当性やその社会的影響については,明快な主張は読み取れないように思われる。? 田中圭二の見解田中圭二は,旧優生保護法違反の保護法益について言及している点が注目されよう。田中は,控訴審判決の判例評釈において,本判決と原判決とはほぼ同旨であるから,両者を総合的に見て解説を進めるとし104,本判決と原判決が,性転向症と呼んでいる障害については,性同一性障害という用語を使用するとしている105。そして医療界の現在の立場から,原判決のいう5 種の条件を検討し,イの条件は性同一性障害の診断にとって必要な条件であり,ハはこの101 石原・前掲注9494頁。102 石原明「性転換に関する医と法の対応」『井戸田侃先生古稀祝賀論文集 転換期の刑事法学』(現代人文社,1999年)951頁以下。103 石原・前掲注(102)952頁。104 田中圭二「性転換手術と旧優生保護法28条」『医事法判例百選』(2006年)86頁。105 同上。