高知論叢108号

高知論叢108号 page 31/136

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性転換手術と刑法に関する一考察29障害の多角性を反映した医療チームに関する条件で,いずれも適正な条件とする。医師1 人の判断が軽率で2 人以上ならば慎重というものではないとする見解も存在するが,妥当ではない....

性転換手術と刑法に関する一考察29障害の多角性を反映した医療チームに関する条件で,いずれも適正な条件とする。医師1 人の判断が軽率で2 人以上ならば慎重というものではないとする見解も存在するが,妥当ではないとする106。ロの調査資料やニの資料は診療のため必要なものである等の理由で,適正とする107。ホは医師の説明義務と患者本人の同意を要する旨の条件であり,術後の精神療法には配偶者の支援を要するため,その同意は必要であり,ホも適正とする108。5 種の条件は概ね妥当であり,かかる意味では原判決と判旨は支持できるとする109。そして,性同一性障害の場合,侵襲の少ない治療法があるのに,被告人はこれらを全く考慮せず,いきなり睾丸全摘出といった侵襲の著しい手術を行っており,この点だけでも正当な医療行為ではないとする110。さらに,旧優生保護法28条違反の罪には被害者本人の同意のあることが一般的であり,本件の場合,生命に対する重大な危険がある場合は違法とする立場を採るならば,本件は違法でないことになるにもかかわらず,本判決や原判決のように処罰するというのであれば,旧法28条の違反の罪は同意傷害の罪ではなく,その法益には人口の維持ないし増加という点が考慮されているのではないかとの指摘をしている111。なお,田中のこの指摘には,このような人口政策を法益とすることに対する論者自身の評価は明言されていないが,一定の場合の優生手術について,旧優生保護法が「女性の生命・健康よりも,男性の『生まれる子に対する利益』および『優生上,問題のない国民人口の維持ないし増加』といった法益の方を優位に立たせている。そこでは,女性は国家や男性のために子を生む道具としか見られていないといっても,けっして過言ではなく,このことは,『母性の生命や健康の保護』といった本法の……目的に矛盾し,けっきょくは,『個人の尊重』の理念(憲法一三条)に抵触し,さらに,憲法二五条一項に違反しているといえるのではなかろうか」と指摘していること106 田中・前掲注(104)87頁。107 同上。108 同上。109 同上。110 同上。111 同上。