高知論叢108号

高知論叢108号 page 32/136

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30 高知論叢 第108号から類推して,否定的に捉えられているといえようか112。田中は,本件については明快に「正当な医療行為ではない」と断定しているものの,他方で優生保護法自体の目的が憲法に違反していること....

30 高知論叢 第108号から類推して,否定的に捉えられているといえようか112。田中は,本件については明快に「正当な医療行為ではない」と断定しているものの,他方で優生保護法自体の目的が憲法に違反していることをも指摘している。? 後藤幸子の見解非法律学の分野でこの問題を検討した後藤幸子の論文は,新たな視覚から本件を検討するものとして注目されよう。後藤は,1996年以来の「性同一性障害」をめぐる動きは,実は典型的な〈男/女〉の枠に収まりきらない人々を,かえって〈男/女〉の枠に押し込めているのではないかとの問題意識の下,今日の「性同一性障害」をめぐる状況を改めて考え直すための一作業として,ブルーボーイ事件を検討する113。本件は,単なる「売春取締り」であったものが,手術実施が「不運」にもたまたま警察の目に触れてしまい,それが当局による医師の摘発を招いたものであり114,警察は,“生殖することができた「正常」な男性”の「生殖能力」を“奪った”ことを重大な“問題”として,「性転換手術」に優生保護法第28条違反を適用した115。もともとは全く異なる意図でつくられた法律が「生殖」の重視という共通項によって「性転換手術」と結びついたことを指摘する116。その後,後藤は本件第1 審判決を検討し,以下のような指摘をしている。被告人側主張の,「彼ら」は「病気」の「かわいそうな人たち」であり,「手術によってしか救いようがない」ゆえに「性転換手術」が「治療」として承認されるべきである,という論理は,今日の「性同一性障害」をめぐる動きにも共通112 田中圭二「優生保護法三四条の保護法益の面から見た本法の問題点」中山研一先生古稀祝賀論文集編集委員会編『中山研一先生古稀祝賀論文集 第一巻 生命と刑法』(成文堂,1997年)81頁。ただし,前提として,ここで田中が想定しているのは去勢手術ではなく優生手術であることに留意すべきであろう。113 後藤幸子「『ブルーボーイ事件』再考 「性転換手術」の実施と規制をめぐって (1)」『日本文化論年報』第7 号(2004年)55頁。114 後藤幸子・前掲注(113)60頁。115 後藤幸子・前掲注(113)74頁。116 後藤幸子・前掲注(113)77頁。