高知論叢108号

高知論叢108号 page 33/136

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性転換手術と刑法に関する一考察31するものである117。裁判所は,警察が手術を「摘発」する際に用いた論理と共通の土台に立っているが,警察,検察とは違い,当時の性科学における研究や諸外国の実践を参考に,一定....

性転換手術と刑法に関する一考察31するものである117。裁判所は,警察が手術を「摘発」する際に用いた論理と共通の土台に立っているが,警察,検察とは違い,当時の性科学における研究や諸外国の実践を参考に,一定の条件付きで理解を示している118。また,被告人側と裁判所のいう「性的自由」の“中身”が“ズレ”ており,被告人側のいうそれは「性的欲求の満足を追求する自由」であるが,裁判所のいうそれは,断種を「最小限度の肉体的侵襲」にとどめることによって保障される“生殖する”「自由」である。これは,「優生保護法」成立過程に対する裁判所の“認識不足”であり,このような裁判所の姿勢からは,優生保護法が「性転換手術」を想定していないことを改めて示している119。さらに,裁判所は,「断種」よりも「去勢」を厳しく規制されるべきとみなしているが120,このように,「生殖腺」に非常に重きを置く考え方が,男女二分法の考え方をより強固なものにする要素の一つになったとする121。最後に,量刑理由について触れ,優生保護法違反に関しては,軽めにとどめられたことを確認している122。続けて後藤は,控訴審判決における注目すべき点として,「去勢」がより“重大なもの”である理由について,「身体に種々の障碍を生ずるおそれの大きい」としたことを挙げ,高裁もまた,男女二分法という共通の発想に立っていることを指摘する123。96年以降,(埼玉医科大学の……筆者注)ジェンダークリニックのメンバーによる,「ブルーボーイ裁判」の“再発見”とされる,「ブルーボーイ事件」は「性転換手術」について「専門の医療チームによる診断治療のプロセスとインフォームド・コンセントを明確に求め」るという「先進的な判断」で裁判がなされたにもかかわらず,その判旨が正しく理解されなかったことで「性転換117 後藤幸子「『ブルーボーイ事件』再考 「性転換手術」の実施と規制をめぐって (2)」『日本文化論年報』第8 号(2005年)37頁。118 後藤幸子・前掲注(117)42頁。119 後藤・前掲注(117)46頁以下。120 後藤・前掲注(117)48頁以下。121 後藤・前掲注(117)49頁以下。122 後藤・前掲注(117)51頁以下。123 後藤・前掲注(117)68頁以下。