高知論叢108号

高知論叢108号 page 34/136

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32 高知論叢 第108号手術」実施の“足かせ”となったという主張124は,必ずしも正しくない125。男女二分法の土台の上に述べられた「ブルーボーイ裁判」における“性転換手術=正当な医療行為”という見解は,「異常....

32 高知論叢 第108号手術」実施の“足かせ”となったという主張124は,必ずしも正しくない125。男女二分法の土台の上に述べられた「ブルーボーイ裁判」における“性転換手術=正当な医療行為”という見解は,「異常」なものを少しでも「正常」に近づけ,よって〈男/女〉の枠組みで成り立っている「適応性」を「附与」しようという発想によるものである126。このことで,“マイノリティーの中のマイノリティー”を新たに生み出している127。いま求められるのは,「ブルーボーイ事件」の“先進性”を語ることではなく,むしろ裁判を含め「ブルーボーイ事件」を正確にとらえ直し,それが孕んでいた“問題”をしっかりと認識することであるとしている128。後藤の問題意識によるところが大きいと思われるが,後藤はいわゆるブルーボーイ事件における男女二分法そのものを鋭く批判している点が注目されよう。裁判所の考え方を生殖腺に重きを置く考え方と看破している点は,本件における被告人側の憲法違反の主張においても検討されるべきものといえようか。ただし,刑法理論としては,なお,身体への侵襲の軽重は検討されるべき論点であり,本稿の課題でもある。5 小 括以上確認してきた通り,本件に関する評釈・諸見解は概ね判旨に賛意を表するものが多いとはいえ,各見解にはかなりの差異が見られる。前節までで,本件を優生保護法違反として構成する判旨に賛成の見解,疑問を指摘する見解,埼玉医科大学倫理委員会答申以降の見解の三つに大きく分類して確認してきた。まず,優生保護法違反と構成する判旨を肯定する見解は,金沢,宮野,高木,高島,富田らに共通して,優生保護法第28条の不妊化目的規定との齟齬をある程度認識しつつも,去勢が優生手術に含まれるとの結論で一致している。しか124 このような主張として,原科孝雄「性転換症事始め,国内事情経過報告」『形成外科』41巻6 号(1998年),塚田攻「性同一性障害の原因と治療」『形成外科』41巻6 号(1998年)を後藤は引用している。125 後藤・前掲注(117)72頁以下。126 後藤・前掲注(117)74頁以下。127 後藤・前掲注(117)76頁。128 後藤・前掲注(117)78頁。