高知論叢108号

高知論叢108号 page 36/136

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34 高知論叢 第108号もあってか,旧法の問題性についての理解の深まりがあったと評しうるが,他方でなお,本件については不十分な手続のもとでの身体に対する重大な侵襲として,本件手術の違法性自体は当然視されて....

34 高知論叢 第108号もあってか,旧法の問題性についての理解の深まりがあったと評しうるが,他方でなお,本件については不十分な手続のもとでの身体に対する重大な侵襲として,本件手術の違法性自体は当然視されているといえようか。問題なのは,そのような流動的な科学に対して,町野にあったような刑事法がどのように運用されるべきかとの問題提起に答え得ていないことのようにも思われる。他方,本件については,近時非法律学からの検討129が散見され,後藤の指摘にみられるように,固定化された男女二分論そのものに対する疑問の提起からは,真の問題がまだ解決されていないことも窺わせる。とはいえ,本稿の問題関心は,このような科学(及び社会における認識)の流動性に向かって刑事法が如何に運用されるべきかにあるのであって,その意味では,そもそも本件手術が傷害罪を構成するのか,そして旧優生保護法による処罰が当時において,更にはその後において如何なる影響を与えたのか,如何なる問題を持っていたのか,その問題が現在ではどのように変化し,あるいは変化せず,そしてその問題に対してどのように解決に取り組めばよいのか,にあるといえよう。次章では,この点につき,特に傷害罪の成否と優生保護法による性転換手術の処罰について検討することとしたい。Ⅳ 性転換手術と刑法1 同意傷害罪成立の可能性本件は,旧優生保護法違反事件及び麻薬取締法違反事件として起訴され,審理された事件であったが,旧優生保護法違反につき,前章で検討した判例評釈129 石田仁「蘇るブルーボーイ裁判の〈精神〉 性転換手術とその違法性に関する,雑誌メディアを用いた物語論的言説分析 」『法とセクシュアリティ』1 号(2002年)85頁以下,石田仁「創られる『争点』,消される〈争点〉 ブルーボーイ裁判の内側における法の外側 」『法とセクシュアリティ』3 号(2008年)89頁以下等。なお, 民法学等の立場から言及,検討するものとして,大島俊之「性同一性障害をめぐる法的諸問題」( 2 頁以下)「性同一性障害と性別表記の訂正」(70頁以下)石原=大島・前掲注?所収,大村敦志「性転換・同性愛と民法(上)(下)」『ジュリスト』1080号(1995年)68頁以下,1081号(1995年)61頁以下,黒田隆史「性同一障害に関する法的諸問題 解釈による解決の可能性とその限界 」『法とセクシュアリティ』1号(2002年)55頁以下等。