高知論叢108号

高知論叢108号 page 4/136

電子ブックを開く

このページは 高知論叢108号 の電子ブックに掲載されている4ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
2 高知論叢 第108号なくとも公には実施されることがなかったのみならず,この問題を論ずること自体がタブー視されたといわれている4。ようやく1996年の埼玉医科大学倫理委員会答申を受けて,「性同一性障害」をめぐ....

2 高知論叢 第108号なくとも公には実施されることがなかったのみならず,この問題を論ずること自体がタブー視されたといわれている4。ようやく1996年の埼玉医科大学倫理委員会答申を受けて,「性同一性障害」をめぐる議論が活性化し,その治療としての性別適合手術(性転換手術)にも,「正当な医療行為」といいうるためのガイドラインが策定されたとされる。適法な性転換手術の実施を長い間不可能にしたとされる,いわゆるブルーボーイ事件については,判決後,刑法学者を中心に判例評釈が出されてきた。これらの判例評釈は,性同一性障害についての特段の関心を示していないし,有罪という結論に批判を加えるものもいない5との評価も存在するが,1996年以降,刑法学の枠を超えて,本件を再検討する論稿が著されている。本稿は,これら一連の判例評釈及び論稿を素材として,いわゆるブルーボーイ事件の,主として刑事法上の問題点を確認することとしたい。Ⅱ ブルーボーイ事件判決の論理構造1 性転換手術に関する裁判所の論理構造まず,性転換手術に関するいわゆるブルーボーイ事件の判決内容を確認することから始めたい。本稿の関心からは,裁判所の判断に関する刑法上の理論の確認と共に,性転換手術の判断の前提たる,裁判所の判断の「思想」的背景を探ることが,本章の課題である。2 事実の概要? 本件に至る経緯1965年夏頃,「怪しげな女装のグループが夜中にさわぎ,風紀が悪くて困る」4 そのため,性同一性障害治療を受けるには,海外渡航が必要であったという。当事者の立場からの論稿として,虎井まさ衛「私の歩んだ道 当事者の立場から 」『形成外科』41巻6 号(1998年)515頁以下,虎井まさ衛「性同一性障害をめぐる現状と課題 3 当事者の立場から」南野知惠子代表編『性同一性障害の医療と法』(メディカ出版,2013年)29頁以下。5 石原=大島・前掲注?はしがきⅰ頁。