高知論叢108号

高知論叢108号 page 40/136

電子ブックを開く

このページは 高知論叢108号 の電子ブックに掲載されている40ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
38 高知論叢 第108号田中は,本件第1審判決が示した5 要件についても,妥当な正当化要件であると評価している。ただ,本判決が医療行為性を否定した点については,田中は,いきなり睾丸全摘出といった侵襲の著しい....

38 高知論叢 第108号田中は,本件第1審判決が示した5 要件についても,妥当な正当化要件であると評価している。ただ,本判決が医療行為性を否定した点については,田中は,いきなり睾丸全摘出といった侵襲の著しい手術を行なっている点だけでも,正当な医療行為ではないとしているが,石原,猪田は明言していない。本件性転換手術は医療行為ではなかったのであろうか。私見では,医療行為で無かったとまではいえないのではないかと考える。原審も,「表見的」とはいいながらも,本件手術が医療行為性を備えていたことを認めている。本件に関する多くの評釈等も含めて,同意による傷害についての違法性阻却を否定し,正当業務行為を否定しているが,流動的な科学に対する刑事制裁発動の限界確定という観点からは,事件全体の特質を見過ごしているようにも思われなくもない。科学が流動的であることを前提とせざるを得ない以上,無制約とはいかないまでも,患者本人の判断が正当業務行為(治療行為性)における違法性判断においてある程度勘案されてしかるべきであろう。そのように解すれば,同意の効果が正当業務行為の成否判断に影響を与えることは肯定されるべきであろう。第1 審判決も,5 要件の一つとして,手術に関し本人の同意は勿論,配偶者のある場合は配偶者の,未成年者については一定の保護者の同意を得るべきとして,その理自体はこれを認めているようにも思われる。ただし,第1 審の5 要件は,正当業務行為の判断基準としては,科学の流動性を勘案すると若干厳格に過ぎる憾みがあるように思われる。危険性を認識しつつも,先端的な医療を受けたいという患者の希望は無視しえないものであり,十分なインフォームド・コンセントを前提とした上で,第一義的には患者本人の意思を十分尊重すべきであり,そうであれば,患者の真摯な同意によって,正当業務行為の成否をより緩やかに判断するということも考えるべきではなかろうか。少なくとも,流動的な科学に基づく「医療」行為に対して刑事制裁を発動しようとするのであれば,患者本人の同意が欠如するということを傷害罪の違法性の要件として,処罰範囲を明確にすべきであろう。このように解することこそ,基本的に科学の判断を尊重するもので,刑罰の謙抑性にもかなうものであろう。上記の主張に対しては,危険性の高い冒険的な手術等を助長することや,患