高知論叢108号

高知論叢108号 page 41/136

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性転換手術と刑法に関する一考察39者本人にそのような判断を強いることになるとの批判も予想されよう。しかし,同意は真摯なものであることが要求されるべきであり,また,当初の科学的な見込みに反して予測しうる重....

性転換手術と刑法に関する一考察39者本人にそのような判断を強いることになるとの批判も予想されよう。しかし,同意は真摯なものであることが要求されるべきであり,また,当初の科学的な見込みに反して予測しうる重大な侵害結果が発生した場合は民事による救済も可能であるのだから,刑事制裁については同意の欠如を要件とすることにそれほど支障があるようにも思われないのである。このように考えると,やはり第1 審の5 要件は厳格に過ぎ,医療ガイドラインの基準の参考としてはさて置き,科学の流動性が問題となる事案における犯罪成立の要件としては不適切ではないかと考える。したがって,本件につき,傷害罪は成立しないと考えるべきではないかとの疑問が拭えないのである。2 優生保護法違反の可能性しかしながら本件は,傷害罪で立件されることなく,優生保護法違反として被告人は起訴された。前章で検討した判例評釈においても,優生保護法28条の適用を肯定する宮野,高木,鈴木や,特別法たる優生保護法違反罪が成立するとする金沢,傷害罪との観念的競合とする富田も,優生保護法違反を肯定する見解といえよう。町野も,同法28条が取締法規的性格をもつとして,手術の手続に瑕疵があったとみられる本件行為を,本条で処罰することも許されるとの見解を示している。金沢は「優生手術のみならず去勢も含まれるとの解釈については,文理解釈として十分可能であり,去勢を同条から除外して別に傷害罪の成立を考えなければならない実質的理由はない」「『生殖を不能にすることを目的として』という点については,不妊化そのものを目的とするものでないという点で若干問題があるが,本条は一定の場合以外には不妊化手術を禁止する趣旨の規定であるから,その手術で生殖が不能となることを認識して行えば足りるとする判旨は妥当」としている。しかし,この評価は妥当なのであろうか。旧優生保護法は,戦前の国民優生法を土台として,それに「母性保護」規定を加える形で,1948年に制定された。第1 条の「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」との目的は,国民優生法の「悪質なる遺伝性疾患の素質を有する者の増加を防遏すると共に健全なる素質を有する者の増加を図り以て国