高知論叢108号

高知論叢108号 page 42/136

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40 高知論叢 第108号民素質の向上を期する事を目的とす」(現代用語に改めた。……筆者注)るとの思想を汲むものであった。このような「優生思想」を背景とする規定が1994年の国際会議で問題視され,1996年,それら....

40 高知論叢 第108号民素質の向上を期する事を目的とす」(現代用語に改めた。……筆者注)るとの思想を汲むものであった。このような「優生思想」を背景とする規定が1994年の国際会議で問題視され,1996年,それらの条文が削除され母体保護法へと改正されている。なお,28条は,母体保護法にも引き継がれている。さて,1940年に国民優生法は成立したが,後の評価とは異なり,制定が目指された当時は,人権にも配慮した「科学」に基づいた法律として捉えられていたようである。当時の刑法学者の見解をみてみると,小野清一郎は,昭和6 年の論稿において,断種手術は「古代に於ける去勢のそれの如く残虐なるものにあらずして……簡易にして苦痛と危険とを伴ふこと少き方法を以てなするもの」141であり,断種法の立法にあたっては,断種手術の方法について「Kastration(去勢……筆者注)は之を排斥しなければならぬ」としていた。木村亀二は,昭和8年の論稿において,「優生学的断種については,個人及び社会の利益のあらゆる保障を伴ったところの立法的解決が更に望ましい」142としているが,その考察にあたって「厳密なる意味における断種に関する問題であって,去勢には関係しない」143と述べている。そうであれば,その後成立した国民優生法や,その流れを汲む優生保護法第28条の「手術」のなかに,当然「去勢」を含むということがいいうるのであろうか。本件判旨を支持する評釈者がいうように,「手術」には「勿論解釈」で去勢を含み,文理解釈上難があるのは,条文の出来が悪いためで,そこは条文に補正を加えて読めばよい,ということが妥当なのであろうか。文理解釈上,無理が生じるのは,判旨がいうような意味で,法律やその条文を規定していないからではないか。優生保護法の解説書144をみると,優生保護法立法の立役者に挙げられる参議院議員・医学博士である谷口彌三郎と衆議院議員・医学博士である福田昌子との共著による解説書の逐条説明においては,第28条の「手術」のなかに,「去勢,断種手術」を含むように説明がなさ141 小野清一郎「断種Sterilization に関する一考察」『刑の執行猶予と有罪判決の宣告猶予及び其の他』(有斐閣,1931年)345頁142 木村亀二「断種(下)」『刑政』46巻12号(1933年)28頁143 木村・前掲注(142)23頁。144 本文中に挙げるもののほか,法務省刑事局参事官・高橋勝好『詳解 改正優生保護法』(中外医学社,1952年),末広敏昭(高木武がその恩師であるという。「はしがき」参照)『優生保護法 基礎理論と解説』(蜻蛉社,1986年)等。