高知論叢108号

高知論叢108号 page 44/136

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42 高知論叢 第108号される被差別者の弾圧に,司法が容易に結びつく可能性を,本件は示しているといえよう150。そして,その可能性が現実のものとなるときには,本件のように手術を行なった医師たる被告人だけでな....

42 高知論叢 第108号される被差別者の弾圧に,司法が容易に結びつく可能性を,本件は示しているといえよう150。そして,その可能性が現実のものとなるときには,本件のように手術を行なった医師たる被告人だけでなく,被害者たるXYZも教唆犯とされうることが危惧されるのである。3 小 括以上の通り,本件は,「先端医療」としての特質を勘案すると,医療行為性を否定される事案ではなく,違法性が阻却され,同意傷害罪は成立しない。更に,優生保護法28条違反については,禁止の対象とする「手術」には該当せず,手術の不妊化目的にも該当しない。医療行為性判断については,高木,高島の評釈にもみられるよう,医療者の自己規制に委ねるべきとの見解が示されてきた。本件第1審が,精力的に正当化要件を示したが,その上で有罪判決を下したことが,結果的に医療の委縮に繋がったといえるのではないか。鈴木の,法が性転向症に対する性転換手術等禁止しても,法の制裁を覚悟でのうえでこれを実施する少数の医師がでるのは防げないであろうが,違法に実施されるものであっても,手術の実施例が集積され,効果が確認されることになれば,医学界の評価はもとより,一般国民の受け取り方にも変化が生ずることも考えられるとする見解は,医と法の実態を指摘するものではあるが,科学が流動的であるにもかかわらず,刑事制裁を容認することになってしまっては,医師と患者を置き去りにしてしまわないかが危惧されることとなろう。国家刑罰権の発動は,謙抑的でなければならないはずである。Ⅴ おわりに最後に,本件を現在取り上げることの意義を改めて確認しておきたい。単に150 セクシュアリティの多様性を認めない国家,社会への問題提起として,アムネスティ・インターナショナル編アムネスティ・インターナショナル日本ジェンダーチーム訳『セクシュアリティの多様性を踏みにじる暴力と虐待』(現代人文社,2003年),真木柾鷹=山田正行編著『トランスジェンダーとして生きる』(同時代社,2006年)等。