高知論叢108号

高知論叢108号 page 50/136

電子ブックを開く

このページは 高知論叢108号 の電子ブックに掲載されている50ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
48 高知論叢 第108号設計画していた電力会社に対して与えられた第一次部分許可4が周辺住民らによって争われたものである。判決はここで安全性審査における行政の優先的判断権5を認め,放射線防護数値などについて争....

48 高知論叢 第108号設計画していた電力会社に対して与えられた第一次部分許可4が周辺住民らによって争われたものである。判決はここで安全性審査における行政の優先的判断権5を認め,放射線防護数値などについて争った住民らの主張を退けた。この判決の概要については,筆者は別稿で述べておいたので6,ここでは司法審査に関わる部分に限定し,判決のポイントをまとめることにする。まず,ヴィール判決において述べられた司法審査論には三つのポイントがある。一つ目は行政の優先的判断権の正当化について,二つ目はリスク調査・評価の際,行政が遵守しなければならない義務について,三つ目は司法審査のあり方についてである。第一の点は司法との関係においてリスク調査・評価の責任は原子力法7 条2 項第3 号の規範構造からして行政にある,とした点である7。これはヴィール判決が連邦憲法裁判所カルカー決定に依拠した部分で,専門性と柔軟性をもつ行政機能を生かして初めて最善のリスク管理は可能になるという動態的人権保障論と結びついている。第二の点であるリスク調査・評価義務について,この判決は,再度カルカー決定に依拠しながら次のように述べる。リスク判断において行政は最善を尽くさなくてはならない。行政はリスク調査・評価活動に際して,支配的な科学学説だけに依拠するのではなく,それとは異なるが尊重に値する(vertretbar)学説はすべて考慮しなければならず,さらに判断において不確実な部分が残るときには十分保守的にならなければならない,と8。そして第三の点について,この判決は連邦憲法裁判所ザスバッハ判決に依拠しながら,限定的な司法審査について以下のように述べる。まず,上に挙げた第一の点から,科学論争及び科学論争から帰結するリスク評価について決定する権限は行政にあり,司法はそれに対して自らとってかわって判断を下すものではない,とした上で,司法審査は行政の判断が恣意なきリスク調4 部分許可の制度については,高橋・前掲注(1)123頁以下参照。5 裁量との違いについては文献も含め,赤間聡「専門技術的裁量と科学技術的判断に関する行政の優先的判断権の論理 原発の安全性判断を題材に 」青山法学論集53巻2号(2011)69~111頁(69~82頁)参照。6 赤間・前掲注(2)75頁以下。7 BVerwGE 72, 300(316).8 BVerwGE 72, 300(316).