高知論叢108号

高知論叢108号 page 52/136

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50 高知論叢 第108号限の後退は必ずしも予定されてはいない。したがって,行政が終局的に選択・依拠したデータや仮説の評価についてはともかく,その前段階となるそれらの収集のあり方,ヴィール判決がいうところの幅広い調査については,当然にそこには事実認定問題が含まれており,これを裁判所が控える理由はない。しかし,この事実認定を厳格に行えば行うほど,科学問題に裁判所が自ら答えることになっていく,というジレンマが生ずる。このように,ヴィール判決は後の判例にとって先例的な役割を果たしたが,その捉え方次第では司法審査密度に大きな差がでる不確定要素を含んでいた,ということもできる。そしてこれは1998年の第三ミュルハイム・ケルリッヒ判決で明らかに顕在化するのである。が,これに触れる前に,上で挙げた行政のリスク調査・評価義務と恣意なき調査という審査基準がヴィール判決から第三ミュルハイム・ケルリッヒ判決にいたるまで,どのように理解されてきたか,について触れておくことが有益であろう。下では三つの判例を挙げてこの点を検証したい。恣意なき調査という概念を調査欠落(Ermittelungsdefi tiz)がないこと,と理解したのは1987年判決である15。事例は周辺住民が原子力施設の立地場所が低く,洪水により炉心溶融を招くおそれがあるとして設置許可に対する取消訴訟を提起したものである。ここで控訴審は証拠調べによって,立地の高さからみて洪水の危険がないとする行政の決定を実質的に肯定した。これに対して上告審判決では,控訴審は自己の見解から原子力法7 条2 項の要件充足を判断してはならないと,この判断代置審査を批判し,代わりとなるあるべき審査方法を次のように述べている。司法審査は行政の思考過程を追試することで,原子力法7 条2 項が要求するリスク調査・評価義務における欠落の有無を見出すことである。そしてこの欠落は行政決定の前提となる調査資料が不十分であったり,調査と結びついたリスク評価が十分用心深くなされていない場合に認められる,と16。15 BVerwGE 78, 177.16 BVerwGE 78, 177(180?181).