高知論叢108号

高知論叢108号 page 53/136

電子ブックを開く

このページは 高知論叢108号 の電子ブックに掲載されている53ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察51こうした判断代置審査に対する否定は1989年判決17でも再度確認されている。事例は原子力発電所設置の第一次部分許可につけられた附款を事業者が争ったものである。附....

行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察51こうした判断代置審査に対する否定は1989年判決17でも再度確認されている。事例は原子力発電所設置の第一次部分許可につけられた附款を事業者が争ったものである。附款の内容は事業者がテロ対策として銃で武装することであった。判決は施設がしっかり守られているか否か,それはどのような方法においてか,といった問題は行政の責任で決定されるべき問題だとした。そして,施設武装に関する問題は予測が関わる問題であり,実践理性ではその生起が否定も肯定もできな事態については,行政が行った予測を裁判所が訂正することはできない,としている18。87年判決で使われた調査欠落という概念を使いながら,実質的に,87年判決よりも審査密度は上がっているようにみえるのが1996年判決19である。事例は燃料棒の設置変更許可を周辺に住む原告が争ったもので,白血病に関する新たな知見が活かされているか,否かが争点の一つになったものである。原告は新しい知見である白血病調査が許可手続でなされた鑑定で考慮されていないと主張したが,控訴審はこれを認めず原告の主張を退けた。上告審判決では,行政の鑑定内容が答えようとしている問題と原告が新知見に基づいて不安に感じている問題とでは内容的なズレがあるとして,この控訴審の事実認定を不十分とした。判決はいう。行政は白血病調査の内容を知らなかったか,あるいは不当に軽視したか,これを控訴審はなお審査しなければならない,と20。さて,上で概略してみた三つの判決では,ヴィール判決の基本姿勢は維持されている。しかし,裁判所の審査が「恣意なき調査の有無」から「調査欠落の有無」へと変わることで,行政のリスク調査・評価義務に対して向けられる司法の目は厳しくなる要素を含んでいたようにみえる。調査欠落を見出すためには,裁判所の中にあるべき調査の観念がなければならないからである。もちろん,判例はあるべき調査を示して調査結果を代置する実体判断を許しているわけではなく,行政が十分な調査資料を収集しているか,否かという外側からの17 BVerwGE 81, 185.18 BVerwGE 81, 185(195?196).19 BVerwGE 101, 347.20 BVerwGE 101, 347(360).