高知論叢108号

高知論叢108号 page 56/136

電子ブックを開く

このページは 高知論叢108号 の電子ブックに掲載されている56ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
54 高知論叢 第108号るリスク評価に特に関わる,と25。そうするとリスク調査に関する優先的判断権はどうなるのかが問題になる。この点,判決では一見したところ,従前の見解を次のように繰り返しているだけである。....

54 高知論叢 第108号るリスク評価に特に関わる,と25。そうするとリスク調査に関する優先的判断権はどうなるのかが問題になる。この点,判決では一見したところ,従前の見解を次のように繰り返しているだけである。現在の知見から肯定も否定もできない実践理性では排除できないリスクをも考慮しなければならない,と26。しかしながら,ここでの「考慮しなればならない」は,第一ミュルハイム・ケルリッヒ判決の「考慮しさえすればよい」とのニュアンスと完全に異なる。というのも,第三事件上告審判決においては,行政による考慮の実質的な中身を審査した控訴審での事実認定が全面的に支持されているからである。控訴審の考えはこうである。地震の揺れに対するリスク調査にあたって,規範となるのは原子力技術委員会基準である。しかし,この基準から自動的に申請場所の地震リスクが計算されるものではなく,それを適用するにあたって,申請場所の過去の地震や地質の調査および(数値の)確定が必要になる。このためには十分な調査が行わなければならない。この点,たしかに行政は調査を行ったが,調査結果である地震強度は不確定な幅を有するものであった。さらに,地震強度と表面最大加速度との関係においても不確定な幅がある。にもかかわらず,行政はこれら不確実性をどのように処理したかを不明にして,地震強度及び表面最大加速度の確定に至った。行政は自己の安全性判断を正当化しなければならず,そのためにデータが示され,かつ評価されなければならない。しかし,当該事例ではこの過程を追うことはできない。ここに調査欠落がある,と27。さて,以上の第一と第三ミュルハイム・ケルリッヒ判決とを比べた場合,調査欠落の意味が異なるのは明らかである。前者は調査そのものの不存在に欠落をみるのに対して,後者は調査はあったが,調査のあり方に欠落を見出している。そしてこの調査のあり方の欠落の認定根拠は,2で指摘した96年判決が行き着く先の「論理の飛躍」にある。控訴審は行政が自身で行った鑑定結果と地震強度および表面最大加速度の確定判断との間には論理の飛躍があることを見逃さなかったのである。これを実体判断代置といえるだろうか。そしてこれは25 BVerwGE 106, 115(122).26 BVerwGE 106, 115(121).27 BVerwGE 106, 115(124-125).