高知論叢108号

高知論叢108号 page 57/136

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行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察55非難されるべきであろうか。以下ではこの問題を論証過程の段階という視点から検討していくことにする。4.論証過程における欠落としての判断過程における欠落上で見....

行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察55非難されるべきであろうか。以下ではこの問題を論証過程の段階という視点から検討していくことにする。4.論証過程における欠落としての判断過程における欠落上で見たように,ヴィール判決以降,裁判所は実体判断を避け,行政の思考過程を追試する Nachvollzug der gedanklichen Operationen der Genehmigungsbehorde(87年判決),Nachvollzug der behordlichen Gedankengange(98年判決) という手法をとってきた。そして学説でも原子力等の科学技術法領域における司法統制においては,計画裁量の統制で使われる衡量過程(Abwagungsvorgang)・基礎づけ過程(Begrundungsvorgang)の追試が有効である,と主張されている28。これらは総称で判断過程の統制と呼んでよいだろう。しかしながら,第一と第三ミュルハイム・ケルリッヒ判決ではこうした判断過程の統制を用いながら,上で見たような司法審査密度に差が出ているし,また学説も判断過程の統制という概念でそれほど明確な審査方法を示唆しているわけではない。この理由は,本稿の視点からみると,三つほどあるように思える。まず,第一に,行政決定に至る過程,特に原子力発電所の安全性に関する判断過程は複数の判断の集合体でありながら,終局的に許可不許可という一つの判断に集約される。しかし,判断としてのこうした全体像が明確化されないまま,追試が行われていること。第二に,第一の点と関連するが,裁判所が審査を控えるのは上記の判断の中のどの部分で,どのような形で控えるのかが明確にされていないので,「統制」の意味が判然としてこないこと。第三に,追試後の評価基準の問題がある。これは2 で挙げたザスバッハ判決基準であるが,「もっともらしい」や「説得力ある」という基準は,判断過程を評価する上で漠然としすぎて,あま28 Eberhard Schmidt-Asmann, in: Theodor Maunz, Gunter Durig , et al., Grundgesetz :Kommentar , Art. 19 IV(2003)Rdn. 187, 213-216. わが国で近時主張されている,論証過程の追試もここに属するように思えるが,以下本稿が基礎にしているドイツ論証理論と同一であるか否かは,別途論究したい。山本隆司「リスク行政の手続法構造」城山英明, 山本隆司編『環境と生命 (融ける境超える法5)』東京大学出版会(2005)所収3~59頁参照。