高知論叢108号

高知論叢108号 page 58/136

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56 高知論叢 第108号り役に立たない,ということが挙げられる。筆者はこうした問題を解決するためには,判断過程の統制をより精緻化する必要がある,と考える。そこで下では,行政法における分析的論証モデルを提唱....

56 高知論叢 第108号り役に立たない,ということが挙げられる。筆者はこうした問題を解決するためには,判断過程の統制をより精緻化する必要がある,と考える。そこで下では,行政法における分析的論証モデルを提唱するコッホの議論を参考に,判断過程の追試そのものの分析,判断における過誤欠落の分析的検討を行うことにする。(ア)コッホの予測概念分析H. J. コッホの行政法における不確定法概念の研究,及び行政法における論証理論・基礎づけ理論(Begrundungslehr)29はドイツでは重要な研究として位置づけられている。筆者はこれについては別稿で述べておいたので詳細は省くが3 0,簡潔に述べると,コッホの行政法理論の特徴は英米の分析哲学の成果を取り入れ,特に概念分析を活かした法解釈と事実認定論を採用している点にある。ここでは,問題となる原子力法7 条2 項第3 号の施設設置要件である「必要な防護措置」という不確定法概念の解釈・適用がどのような判断過程を経過するのか,をコッホの予測概念の分析を参考に検討してみたい31。不確定法概念の中には,将来の害悪などを予測することの不確実さゆえに,予測概念(Prognosebegriff e)といわれるものがあること ただし表現は統一的でない は,行政法学者に認識されてきた。コッホがその典型例の一つとして挙げるのが連邦インミッシオン防止法の「環境への有害な影響」である32。29 Hans-Joachim Koch, Unbestimmte Rechtsbegriffe und Ermessensermachtigungenim Verwaltungsrecht, Frankfurt am Main,1979; Hans-Joachim Koch / HelmutRusmann, Juristische Begrundungslehre , Eine Einfuhrung in Grundprobleme derRechtswissenschaft, Munchen, 1982. また,ハンス・ヨアヒム・コッホ編岡田正則監訳『ドイツ環境法』(成文堂,2011)も参照。30 赤間聡「公法上の不確定な法概念とその適用の合理化(1) H. J. コッホ及びR. アレクシーの公法理論を中心に 」青山法学論集第38巻第2 号(1996)1~30頁。31 以下述べていくように,本稿の立場はコッホの論証理論に完全に依拠するものではない。むしろ,原子力法の適用の場面における論証理論の限界を意識しつつ,再構成を試みるものである。なお,コッホの概念分析や論証理論が判断過程の統制においてもつ意義については,既に高橋滋教授が20年以上前に指摘していたことである。高橋・前掲注(1)『現代型訴訟と行政裁量』112頁以下参照。32 Koch / Rusmann 前掲注(29)206-209. また,コッホ編岡田監訳・前掲注(29)183頁