高知論叢108号

高知論叢108号 page 59/136

電子ブックを開く

このページは 高知論叢108号 の電子ブックに掲載されている59ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察57連邦インミッシオン防止法は人間,生態系,環境を有害物質による汚染から守ることを目的としており,汚染物質排出施設の設置・操業の許可要件としては,環境への有害....

行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察57連邦インミッシオン防止法は人間,生態系,環境を有害物質による汚染から守ることを目的としており,汚染物質排出施設の設置・操業の許可要件としては,環境への有害な影響がないという不確定法概念を含む規定を設けている(同法4 条~ 6 条)。そして同法3 条1 項によれば,「環境への有害な影響」とは「その種類,量からして,公衆または近隣に対する危険,重大な損害,重大な負荷を生じさせる性質を有するもの」とある。このように,「環境への有害な影響」とは,人や環境に与えるであろう重大な損害や負荷の可能性であるので,将来の事態の予測を含む予測概念であることは明らかである。そして,原子力法の7 条2 項第3 号の不確定法概念も放射能物質放出という将来の損害の抑制を図るものであるから,同様の予測概念といえる。さて,この予測概念の適用においては,申請者・申請物件が将来の事象を惹起するか否か,という予見を必要とするから,この判断が特に専門性が強い場合には,申請対象に対する予測概念の適用を包摂裁量とみる考えがある。これが先に挙げた伝統的判断余地論である。が,もう少し細かく見ると,将来の予見に関する判断は,法が予定する将来の害悪の種類,及びその蓋然性の特定,そしてその害悪を引き起こすであろう原因の特定に関する部分に分かれる33。上の連邦インミッシオン防止法の「環境への有害な影響」(S)についていえば,1)まず法が予定する害悪として発がん(Z)や循環器系疾病(Y)が特定され,2)加えて産業との兼ね合い,リスクの比較等で社会で容認できるこうした害悪の発生率を決める,3)その後にこうした害悪をこうした蓋然性で惹き起す有害物質およびその排出量のリスト(K)が調査から特定される。これを論理式で簡単に表示すると,連邦インミッシオン防止法が予定する害悪を法が予定する蓋然性で引き起こす場合には「環境への有害な影響」(S)がある(→ S「場合には」は→で示す),と解釈・具体化(konkretisiern)が始まる。法が予定する害悪は発がん(Z)あるいは循環器系疾病(Y)である(Z ∨ Y「あるいは」は∨で示す),と解釈・具体化が進む。そして最後にこの二つの害悪を法が予以下も参照。33 Koch / Rusmann 前掲注(29)207. なお,以下の論理式はコッホのものを単純化し,一部修正して示してある。