高知論叢108号

高知論叢108号 page 6/136

電子ブックを開く

このページは 高知論叢108号 の電子ブックに掲載されている6ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
4 高知論叢 第108号したものであるとして,起訴された。? 第1審判決の概要ⅰ 被告人側の主張被告人側が争った争点は,下記の通りである。まず,公訴事実第1 の優生保護法違反事件関係について,①本件睾丸摘出手....

4 高知論叢 第108号したものであるとして,起訴された。? 第1審判決の概要ⅰ 被告人側の主張被告人側が争った争点は,下記の通りである。まず,公訴事実第1 の優生保護法違反事件関係について,①本件睾丸摘出手術は正当な医療行為である,②優生保護法第28条は憲法第11条,第13条に違反する,③本件手術は優生保護法第28条の構成要件に該当しない,④被告人に犯意はなかった,として争った。また,公訴事実第2 の麻薬取締法違反事件関係については,被告人は暴力団の幹部であるCに威圧されたため恐怖心からやむを得ず麻薬を渡したものであるから犯意は全くなく,またその際Cから無理やり金員を置いていかれ,それを拒むことは事実上不可能であったもので,営利の目的はなかったと主張した。上記①の正当な医療行為であるとの被告人側主張は,以下のように敷衍されている。?XYZはいずれも医学的にみて性的倒錯のうち性転向症の症候群に入る精神異常者であり,肉体と精神が完全に分離しているため性に関する精神的葛藤が極めて大きく,反対性への肉体的転換を切願していた。?本件の睾丸全摘出手術は性転換手術の一段階として行われたものであり,性的倒錯者に対し,精神療法,体質を変えるための外科的療法やホルモン療法はいずれも効果がなく,治癒させることは不可能であるから,むしろ性転換手術が,彼らに社会適応性を付与しうる有効,適切な治療というべきであり,同手術はスカンジナビア諸国や米国等において相当数行われ,医学的に治療行為として承認されている。?手術を受けた3 名は,自己の自由意思により被告人に対し真剣に性転換手術を依頼したのであって,単なる承諾以上の積極的な治療依頼があった。?被告人は長年産婦人科医として診療に従事し,大学において講師をつとめ,医学生の教育にあたってきたもので,医学全般にも通じており,性的倒錯者についても数多く臨床経験を有し,造膣手術の経験も豊富であるから性転換手術を行う能力は十分にあった。従って,本件手術は正当な医療行為である,というものである。