高知論叢108号

高知論叢108号 page 60/136

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58 高知論叢 第108号定する蓋然性をもって惹き起す有害物質およびその排出量のリスト(K)が特定される(K → Z ∨ Y)。以上,簡単にK → Z ∨ Y → S で表記されよう。Kは解釈・具体化の終着地点であるから,こ....

58 高知論叢 第108号定する蓋然性をもって惹き起す有害物質およびその排出量のリスト(K)が特定される(K → Z ∨ Y)。以上,簡単にK → Z ∨ Y → S で表記されよう。Kは解釈・具体化の終着地点であるから,ここを定める行政規則は規範具体化行政規則(Normkonkretisierende Verwaltungsvorschriften)と呼ばれることになる34 判断余地を前提としてではあるが。最後に,申請物件である施設の操業計画?が事実認定されれば,たとえば,a → K → Z → S という法適用が行われる35。この予測概念の法適用は,結論である許可・不許可の側から振り返れば,決定の理由づけの側面をもつものであるから,この意味で行政の論証過程と呼べるものである。そして,司法審査はこれに対してチェックを行うものであるから,それが実体判断代置審査か過程の統制審査かは別にして,審査の対象は上の論理式に該当する部分となる。すなわち,1)法がある蓋然性をもって懸念する害悪はZ ∨ Y で妥当か,2)自然科学的判断K → Z ∨ Y は妥当か,3)a の事実認定は妥当か,である。(イ)原子力法における予測概念ところで予測概念としての「環境への有害な影響」と原子力法の「必要となる防護措置」とでは大きな違いがある36。それは害悪の蓋然性,及び害悪を引き起こす法則探求に関する部分である。まず,原子力法の場合,害悪は放射性物質による生命,健康,財産損害であることは容易にわかる。しかし,法がこれを許容する蓋然性については,通常運転時の低線量被爆の場合は別として,一番重要となる放射能物質放出事故においては特定することが困難を極める。むしろ許容される蓋然性の特定よりは,カルカー決定がいうように,この予測概34 これはヴィール判決による命名であるが,上の流れをあくまで法解釈と捉えるコッホの立場からは,ここに拘束力を認める理由はない。Koch / Rusmann 前掲注(29)208-209. コッホ編岡田監訳・前掲注(29)232頁参照。35 正式には,∧x(Zx ∨Yx → Sx), ∧x(Kx → Zx ∨Yx), Ka,Ka → Za,Za → Sa,Sa. そしてさらに,Sa を不許可に帰結させるのが法適用の全体像である。こうした法論理の基本形については, Koch / Rusmann 前掲注(29)39-57を参照。36 本稿では原子力安全性に関する基本書として,特に近藤駿介『原子力の安全性』(同文書院,1990),佐藤一男『改訂 原子力安全の論理』(日刊工業新聞社,2006)を参照した。