高知論叢108号

高知論叢108号 page 61/136

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行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察59念の法適用には,現代の科学技術でベストを尽くした危険除去(BestmoglicheGefahrenabwehr)を行い,実践理性上可能な限り損害可能性を排除することが重要となる。あ....

行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察59念の法適用には,現代の科学技術でベストを尽くした危険除去(BestmoglicheGefahrenabwehr)を行い,実践理性上可能な限り損害可能性を排除することが重要となる。あえていえば,このことの裏返しとして,法が許容する災害の蓋然性とは実践理性が及ばない残余リスク(Restrisiko)であるといえる37。第二に,事故による害悪,放射性物質放出事故の予測は,それが地震などの外部事象によるものであれ,あるいは機器故障という内部事象によるものであれ,自然法則と構造物のメカニズムの相互作用によって決定される。特に原子力発電の場合には,災害が重大であるだけに,施設は想定される事故の防止及び事故拡大の防止という多重防護システムをとっている。そうすると,予測判断は事故防止である余裕設計からスタートして,それがうまくいかなかった場合の防護措置,またそれがうまくいかなかった場合の防護措置…という失敗の連鎖として論理化される38。以上のことをコッホの論理式で単純化すると,各部分部分での防護機能不全=排除されないリスクの集積が災害の蓋然性となる。例えば,冷却材喪失事故を念頭に置けば,放射能外部漏れ事故の蓋然性(Y)は一次冷却材喪失(A)∧ ECCS 不全(B)∧圧力容器損壊(C)∧格納容器損壊(D)→ Y となる(∧は「かつ」を示す)。ABCDの事態が現代の科学技術基準で実践理性上排除される場合には,Yもまた実践理性上排除される。したがって,予測概念の適用という観点から見た場合,原子力法の第一次的な法適用者である行政は事業者の申請に対して,各項目がすべて実践理性上排除された場合に 通常,これは安全審査指針で定められた起因事象の様態を数値化し,それに対応する防護措置を数値化する解析によって行われる ,許可を与えることでき,排除されない,あるいは不明の状態では許可は禁止される39,ことになる。そうすると,原子力の設置許可を出した場合,行政の論証はABCDの否定論証となる。少し粗く書くと,¬ A(一次冷却材喪失が実践的に排除できる)∧ ¬ B(ECCS 不全37 これがカルカー決定の基本的な立場である。BVerfGE 49, 89.38 こうした発想の典型例がいわゆる確率的安全評価であろう。佐藤・前掲注(36)240頁以下参照。39 第一ミュルハイム・ケルリッヒ判決を想起。BVerwGE 80, 207(216-217).