高知論叢108号

高知論叢108号 page 62/136

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60 高知論叢 第108号が実践的に排除できる)∧ ¬ C(圧力容器損壊が実践的に排除できる)∧ ¬ D(格納容器損壊が実践的に排除できる)→ ¬Y(事故による放射能放出が実践的に排除できる)となる(¬ は否定を....

60 高知論叢 第108号が実践的に排除できる)∧ ¬ C(圧力容器損壊が実践的に排除できる)∧ ¬ D(格納容器損壊が実践的に排除できる)→ ¬Y(事故による放射能放出が実践的に排除できる)となる(¬ は否定を示す)。ところで,このようなABCDの否定論証はどのようになされるであろうか。ABCDは各々でまた多重防護が働いているので,個々の事故シナリオの否定が論証になる。たとえば,一次冷却材喪失の蓋然性の否定は配管破損が一つの事故シナリオになるので,配管の厚さという十分な余裕設計(E)や十分な保守点検(F)などが¬ Aの論証になる40。E∧F→ ¬A。そしてEとFそのものはまたその肯定論証を必要とするからさらにこれが続けられる。G→F…。このうち,一番上のレベルの判断,A(一次冷却材喪失)∧B(ECCS 不全)∧C(圧力容器損壊)∧D(格納容器損壊)→ Y(放射能外部漏れ)は,指針で明示もしくは,前提としている論理である。このレベルの判断を便宜上「大枠判断」と呼んでおく。大枠判断で現れる個々の項目の否定論証,すなわちE∧F→ ¬A という下のレベルの判断を「element判断」と呼ぶことにする。E,F部分もさらに論証が進めば,element 判断はさらに下位のelement 判断で基礎づけられる。さて,このように考えた場合,たとえば判例や学説でしばしば使用される「事故シナリオ」(Storfallszenarios)や「判断(eigene Uberzeugung, eigeneBewertung)代置」という語が如何に多義的であるかが判明する。というのも,行政に優先的判断権があるとしばしばいわれる事故シナリオという概念にしても,大枠判断における事故シナリオ,element 判断におけるそれ,あるいは下位のelement 判断におけるもの,と階層レベルで,シナリオ作成における詳細さが,それゆえ専門性,予測難易度が異なる。したがって,それらが全て等しく行政の優先的判断権に属する,とするのは疑問である。上で挙げた89年判決,事業者が許可の附款につけられた過重なテロ対策を争った事例では,確かに,事故シナリオは行政の優先的判断権に属する,とされた。しかし,ただこの場合でも,事故シナリオは無制約に行政権限に属するのではなく,「実践理40 原子力訴訟の大部分がこうした項目と細目における主張と反論になっているが,裁判所における論理整理の意識は随分と差があるようにみえる。たとえば,伊方原発松山地裁判決と後述するもんじゅ高裁判決とを比較した場合,後者の方が体系性を有する。