高知論叢108号

高知論叢108号 page 63/136

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行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察61性で肯定も否定もできない状況については」という限定をつけている41。これはある意味で判断階層の上下と優先的判断権の関わりを指摘したとも理解できよう。同様のこ....

行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察61性で肯定も否定もできない状況については」という限定をつけている41。これはある意味で判断階層の上下と優先的判断権の関わりを指摘したとも理解できよう。同様のことが実体判断についてもいいうる。この点はドイツでも我が国でも長らく議論されてきた点なので,少し詳細に論じたい。原子力法の第一次的法適用者である行政によってなされた多段階の判断A∧B∧C∧D→Y…はどれも自然科学的,工学的判断の性質をもつことは明らかである。仮に裁判所の審査が行政と同じ立場での二度目の法適用(Wiederholung der Rechtsanwendung)であるとするならば42,自身が新たに論理式を作り直して,申請書をこれに当てはめて安全性審査を行うことになってしまう。これは自ら論理式を作らなくとも,行政のA∧B∧C∧D→Y…という論理式及び最後の事実認定に対して,肯定なり否定なりの評価で結論を導き出した場合にも同様である。87年判決の例でいえば,控訴審は,証拠調べにおいて,洪水の大きさ,施設への流入ルート,そして配管・電源の支障など,事実認定に至るまで綿密に行ってしまった。これは,たしかに,ザスバッハ判決が否定した実体判断代置に他ならない。しかしながら,ザスバッハ判決にしたがって,追試して論理の「もっともらしさ」をチェックするにしても,大枠判断を初めてとして,すべてが自然科学的,工学的判断の性質を持つものであるから,どちらにしても裁判所の審査は論理の一貫性をチェックする程度で済むはずがない。要するに,実体判断は事実認定に至るまですべて行うことが禁じられるのであって,過程の統制であっても,最初の大枠判断を含め,裁判所は少なくとも一度は実体判断をしないと,審査そのものが成り立たない。87年上告審判決でも,「施設に水が押し寄せれば,機器の破損の可能性があり,そうすると冷却システムが危うくなることもあり得る」,この程度の実体判断を控訴審に禁止したわけではないであろう。41 BVerwGE 81, 185(195-196). 我が国においても,指針にない事故シナリオについて,司法審査の対象となりうるとの見解がある。交告尚史「大規模施設と司法審査 原発訴訟を念頭に置いて 」公法研究53号(1991)195~204頁(198頁以下)。42 Udo Di Fabio, Risikoentscheidungen im Rechtsstaat : zum Wandel der Dogmatikim offentlichen Recht, insbesondere am Beispiel der Arzneimitteluberwachung,Tubingen, 1994, 463. ファビオはこれを批判している。