高知論叢108号

高知論叢108号 page 65/136

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行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察63きだし,それに対する耐性が示される申請内容=設計内容を正当化する推論形式になる。例えば,上記E(配管の厚さ)の妥当性は,1)力学法則,材質の耐性に関する経....

行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察63きだし,それに対する耐性が示される申請内容=設計内容を正当化する推論形式になる。例えば,上記E(配管の厚さ)の妥当性は,1)力学法則,材質の耐性に関する経験則,2)予定している特定温度と特定水圧から,3)予測される当該施設の当該部位にかかる応力を前提に,論証される45。さて,ここが裁判の争点になった場合,裁判所が実体判断を行うということは,証拠調べによって,2つの説明項の妥当性について自己の見解(eigeneUberzeugung)をもつことを意味する。これが通常許されないとされるのは,力学法則,化学法則は通常一般には争われないものであっても,材質の耐性を実験データから一般化する作業,あるいは特定部位での負荷の予測などはその実験方法が確定されていなかったり,予算的,時間的に実験の方法やその回数に限界があることなどから,純粋な科学問題といえない一部政策的な要素が含まれていること46,また,地震や地質などに関する学問はその性質から事柄によっては実験がそもそもできなかったり,様々な仮説が併存する場合があり,裁判所が科学問題について決着をつけることは避けなければならない,という理由があるからである。こうしたことから,ここに行政の優先的判断権を認めることはそれ相応の根拠がある47。しかし,そうすると,ヴィール判決以降展開されてきたリスク調査の過誤欠落などは裁判所に認定できないのではないか,という疑問が生ずる。調査とは説明項である法則やデータの根拠に関わる事柄だからである。この点どのように考えるべきなのか,これを再び第一及び第三ミュルハイム・ケルリッヒ判決を見ながら検討することにする。45 機器の余裕設計についての一般的論証スタイルを考える上で,近藤・前掲注(36)114頁以下が参考になる。46 いわゆるトランス・サイエンス問題である。Alvin M. Weinberg, Science and Trans-Science, Minerva 10(209-222)(1972),特に209-211を参照。なお,ワインバーグの紹介としては,小林傳司『トランス・サイエンスの時代:科学技術と社会をつなぐ』(NTT出版,2007)120頁以下参照。47 Fabio 前掲注(42)275,286.また,わが国においても,実験・証明の判断余地ともいえる点を指摘する交告尚史教授の見解がある。「伊方・福島第二原発訴訟最高裁判決をめぐって<座談会>(特集 伊方・福島第二原発訴訟最高裁判決)」ジュリスト1017号(1993),9~35頁(15,23~24頁)。